2018.6.1.

カミツレ(カモミール)と鎮静・不眠

東邦大学薬学部生薬学教室講師

竹元裕明

はじめに

現代社会における様々なストレスによる精神の緊張は、過敏性腸症候群などの心身症や不眠症状などのストレス障害を引き起こし、日常生活に支障を来す。特に不眠症状は、現在日本において5人に1人が抱えており、不安障害やうつ病などの中枢神経系疾患を発症する要因の1つとなることから、生活の質 (quality of life:QOL) の低下に大きく影響している。

ストレス障害や中枢神経系疾患の発症の要因には、ストレス伝達経路として知られる視床下部-下垂体-副腎皮質系が関与することが報告されている。ストレスに生体がさらされると視床下部からコルチコトロピン遊離促進ホルモンが分泌されて下垂体を刺激し、さらに下垂体から分泌された副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) が副腎皮質を刺激することでグルココルチコイドが放出される。このグルココルチコイドは通常、ストレスに対する防御因子として機能するが、持続的なストレスにさらされることで視床下部-下垂体-副腎皮質系の調節機構が破綻し、グルココルチコイドが持続的に過剰に分泌される。その結果、グルココルチコイドが海馬の神経細胞やグリア細胞に障害を与え、中枢神経系疾患が発症するとされる。中枢神経系疾患に対して、抑制性アミノ酸であるγ-アミノ酪酸 (GABA) や精神神経機能に広く関与するセロトニンに作用する薬物が一般的に用いられる。例えば、GABA受容体に作用するジアゼパムは、催眠鎮静薬として不安症状や不眠症に利用され、また中枢シナプスのセロトニン濃度を上昇させるセロトニン選択的取り込み阻害薬は、うつ病治療に利用される。しかし、催眠鎮静薬の長期的服用による依存形成、ふらつき、見当識障害や、抗うつ薬の副作用である排尿障害や便秘が問題となっている。

ストレス障害に対する有効な対症療法が求められている中で、QOL の向上と健康増進などを目的として植物を用いる補充療法の社会的認知と普及が進みつつある。植物精油の香りを吸入することで心身の疾病の予防や治療を行う芳香療法や、機能性ポリフェノールをハーブティーとして摂取し鎮静やリラックス効果を得ることに関心がもたれている。本稿では古代エジプト、ギリシア、ローマ時代から薬草として利用されてきた欧米では最もポピュラーなハーブの1つであるカミツレ(カモミール)の鎮静・不眠作用に関して紹介する。

1. カミツレとは

カミツレ (Matricaria recutita L.) はヨーロッパ~西アジア原産のキク科の1年草~越年草であり、頭状花が薬用部位である。第7改正日本薬局方までカミツレとして、消炎、発汗、駆風剤として収載されていた。主な含有成分としてα-bisabolol、α-bisabolol oxide A、chamazulene などの精油成分や、apigeninや quercetinなどのポリフェノールが知られている。カミツレを水蒸気蒸留することで得られる精油画分はアロマオイルや浴用剤として、また乾燥した頭状花はカモミールティーとして親しまれている。

2. カミツレの芳香の抗ストレス作用

Yamadaらは拘束ストレスを負荷したラットを用いて、カミツレの芳香の抗ストレス作用を評価した(1)Yamada K, Miura T, Mimaki Y, Sashida Y. Effect of inhalation of chamomile oil vapour on plasma ACTH level in ovariectomized-rat under restriction stress. Biological and Pharmaceutical Bulletin. 19, 1244-1246 (1996)。ストレス負荷前にカミツレ精油 (0.7mL) を充満させたケージ (9L)内にラットを投入し、1時間カミツレの芳香を吸入投与させた。この処置を1日2回、3日間繰り返した後に、拘束ストレスを30分間ラットに負荷した。その結果、ストレス伝達に関与するACTHのレベルが拘束ストレスを負荷することで有意に増大した (ストレス:なし13pg/mL、有り123pg/mL) が、カミツレの芳香をあらかじめ吸入させたラットのACTHレベルは74pg/mLとなり、催眠鎮静薬のジアゼパムと同等の抗ストレス作用を示した。さらに、卵巣を摘出して作成した更年期障害モデルラットを用いて同様の実験を行った結果、ストレス負荷により上昇したACTHレベル (155pg/mL) を、ジアゼパム (92pg/mL) よりもカミツレの芳香(63pg/mL) が強く低下させる効果を示すことが明らかとなった。カミツレの芳香は、ストレス感受性が高くなる更年期においても有用な抗ストレス剤として利用できる可能性がある。

3. カモミールティーの自律神経機能と睡眠に与える影響

Moriyaらは、カモミールティーのリラックス効果を評価するため、健常男性12名に対してクレペリンテスト(一桁の足し算を45分間実施)をストレス負荷として与えた後にカモミールティー(55℃ ,150mL) を飲用させることで、自律神経機能に与える影響を調査した(2)Moriya K, Oda S, Nakamura H, Yano E, Kakuta H. Correlation between the indices of autonomic nervous system and mood after drinking chamomile tea. Japanese Journal of Biofeedback Research. 28, 61-70 (2001)。被験者には電極が取りつけられ、心電図の波形から交感神経系 (緊張の指標) と副交感神経系 (リラックスの指標) の優位性を評価した。一般的に、ストレス時や緊張時には心拍数は上昇する。カモミールティーと白湯を飲む直前の心拍数の平均値はそれぞれ77.5bpm, 74.8 bpmで2群間に有意差は認められなかったが、カモミールティーを飲んだ後の30分間の心拍数の平均低下量は、白湯と比較して有意に大きくなる (最大4bpm低下) 結果が得られた。また交感神経活動の指標として参考にされるLF/HF比について、飲用後30分間の2群の平均低下量はカモミールティーを飲用したほうが有意に大きくなる結果が得られた。

カミツレは伝統的に睡眠改善によいといわれてきているが、明確な実証データや学術報告は多くない。Yanoらはカモミールゼリーの摂食が自覚的睡眠感に及ぼす影響についてOSA 睡眠調査票を用いて、睡眠障害をもたない健常な30代および40代の男性7名、健常な閉経後の50代および60代の女性7名を対象として起床時に調査した(3)矢野悦子、橋本恵子、生野寿恵、角田英男、森谷潔:温めたカモミールゼリーの摂食が自覚的睡眠感に与える影響. 日本生理人類学会誌, 9, 132-133 (2004)。男性7名を対象とした試験では、カモミールゼリーの摂食夜は3つの因子、①ねむ気の因子、②睡眠維持の因子、③寝つきの因子について有意に高い値を示した。また女性7名を対象とした試験では、①睡眠維持の因子について有意差が認められた。Yanoらは、温めたカモミールゼリーを摂食した場合に、皮膚温の上昇と末梢血流の増大、副交感神経優位状態やリラックス感が増大することを既に報告している。眠りにつく前の自律神経活動が交感神経支配から副交感神経支配優位に切り替わることで入眠が円滑になった可能性を示唆している。

4. カミツレの催眠鎮静作用に関与する成分

Tabariらはカミツレに特有な芳香成分であるα-Bisabololに着目して、マウスを用いた高架式十字迷路試験から抗不安作用の解析を行った(4)Tabari MA, Tehrani MAB. Evidence for the involvement of the GABAergic, but not serotonergic transmission in the anxiolytic-like effect of bisabolol in the mouse elevated plus maze. Naunyn Schmiedebergs Archives of Pharmacolcogy. 390, 1041-1046 (2017)。この試験装置は壁のない走行路と壁で囲まれた走行路から構成され、壁のない走行路への侵入回数の増加を抗不安作用として評価できる系である。α-Bisabololをマウスに腹腔内投与 (1mg/kg) した結果、ジアゼパムと同等に壁のない走行路への進入回数の増加が観察された。さらにα-Bisabololの抗不安作用はGABA受容体の阻害薬を前処置することで完全に消失したことから、GABA受容体を介した作用であることが示唆された。さらに Kimらはカモミールティー中に多く含有されるapigeninの睡眠に与える影響に関してペントバルビタール睡眠試験から解析した<fn><Kim JW, Kim CS, Hu Z, Han JY, Kim SK, Yoo SK, Yeo YM, Chong MS, Lee K, Hong JT, Oh KW. Enhancement of pentobarbital-induced sleep by apigenin through chloride ion channel activation. Archives of Pharmacal Research. 35, 367-373 (2012)/fn>。マウスに対して睡眠導入薬であるペントバルビタールの投与 (40mg/kg) 30分前にapigeninを経口投与 (50mg/kg) した結果、有意な睡眠増強作用が認められた。

カミツレに関する研究成果が、ストレスに悩む中高年世代や高齢者の睡眠改善へ応用され、人々の健康維持や向上に貢献することが期待される。

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1. Yamada K, Miura T, Mimaki Y, Sashida Y. Effect of inhalation of chamomile oil vapour on plasma ACTH level in ovariectomized-rat under restriction stress. Biological and Pharmaceutical Bulletin. 19, 1244-1246 (1996)
2. Moriya K, Oda S, Nakamura H, Yano E, Kakuta H. Correlation between the indices of autonomic nervous system and mood after drinking chamomile tea. Japanese Journal of Biofeedback Research. 28, 61-70 (2001)
3. 矢野悦子、橋本恵子、生野寿恵、角田英男、森谷潔:温めたカモミールゼリーの摂食が自覚的睡眠感に与える影響. 日本生理人類学会誌, 9, 132-133 (2004)
4. Tabari MA, Tehrani MAB. Evidence for the involvement of the GABAergic, but not serotonergic transmission in the anxiolytic-like effect of bisabolol in the mouse elevated plus maze. Naunyn Schmiedebergs Archives of Pharmacolcogy. 390, 1041-1046 (2017)
東邦大学薬学部生薬学教室講師
竹元裕明 たけもと・ひろあき
1981年まれ。2004年富山医薬科大学薬学部薬学科卒業。08年京都大学薬学研究科博士課程中途退学。同年北里大学薬学部生薬学教室助教。 15年博士(薬学)京都大学。18年4月より現職。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第44号 2018年6月