2018.3.1.

総説:ハナソウカと月桃 ─分類から精油、DNAまで─

BRIC Inc. 代表 / 元高知県立牧野植物園研究員

船越 英伸

1.ハナソウカとは

近年、日本でもアロマセラピーの普及とともに、欧米のハーブではなく、在来の「和の香り」が脚光を浴びつつある。その中で特に注目されているのがショウガ科の月桃であり、国内ではシマゲットウ(図1,Alpinia zerumbe(t Pers.)B.L.Burtt&R.M.Sm.var.zerumbet)とハナソウカ(図2)

の2種類の精油が流通・販売されている。ハナソウカという植物の名前を初めて聞く読者がいるかもしれないが、それもそのはずで、筆者が小笠原のいわゆる「月桃」が草丈が琉球産のものと比べてあまりに高く、花も大きくて観賞価値がより高いことに最初に着目し、命名したからだ。ハナソウカの学名は、Alpinia zerumbet (Pers.) B.L.Burtt; R.M.Sm. var. excelsa Funak.; T.Y.Ito となる。この新変種名の excelsa とは、より大きいとかより優れたという意味のラテン語である。ハナソウカという和名の由来をこれまでどこにもちゃんと書いたことがないのでここに記しておきたいが、ハナソウカが現在、多く生育している小笠原諸島や大東諸島、伊豆諸島の八丈島では(図3)、三者に共通する八丈方言でいわゆる「月桃」のことを「ソーカ」と従来、呼び習わしてきた。

図3

ソーカは、語源的には「束荷」説など諸説あったが(傳田,2008)、筆者は中国大陸で漢方に使われる同じショウガ科の「草果 Amomum tsaoko Crevost &Lemarié」に由来していると考える。ところが、この小笠原・大東産の「月桃」の和名にそのまま「ソウカ」を使用すると大陸で漢方に使用する植物と紛らわしいので、花が大きくて美しい特徴に鑑みて、「花草果(ハナソウカ)」とした次第である。

図3同様に、シマゲットウを琉球方言で「サンニン」と呼ぶのは、同じ中国大陸で漢方に使われるショウガ科植物の「砂仁 Amomum villosum Lour.」に由来しているのではなかろうか? というのも、1837年に成立した『質問本草』によると、琉球王朝時代、名前のわからない植物は中国大陸に渡る進貢船に乗せて彼の地の本草学者に名称と効能を尋ねるのが慣例だったからだ(原田, 2002)。傳田(2008)は、成長するのに「三年」かかることから「サンニン」と名づけられたとしているが、筆者は違うと思う。いずれにしても、中国大陸にはもともとシマゲットウやハナソウカは自生していなかったと考えられる(船越&児嶋, 2008)。なお、沖縄の俗称で、ハナソウカのことを「タイリンゲットウ」と呼んでいる人がいるのだが混乱を招くのでやめたほうがよい。なぜなら、「タイリンゲットウ」という和名は戦前に当時東京帝国大学講師だった早田文蔵によって1917年に、「ダイリンゲットウ」という和名は台湾林業試験場の佐々木舜一によって1928年に、台湾北部から北東部にかけて固有の、Alpinia uraiensis Hayata(図4、台湾名:烏来月桃[ウライゲットウ])という植物に与えられた名称であり、本来、沖縄には自生していない植物なのに、アロマセラピー関係の論文ではしばしばこの学名が使われていて、明らかな誤用であるので注意されたい。

図4 ウライゲットウ

2.ハナソウカの形態

ハナソウカは花が約20%、シマゲットウに比べて大きく、つぼみの先のピンク色が濃いのが特徴である。図5では花の形質のうち唇弁長で代表して花の大きさを示した。果実はめったにできないが、得られた種子は約43%の発芽率があった。偽茎も琉球列島産のシマゲットウに比べると約50%長い特徴があるが、台湾産のシマゲットウとは有意な差がなかった(図6)。葉形(図7、葉身の長さと幅の比で示した)においては、ハナソウカはシマゲットウに比べてよりスレンダーで、逆に、台湾の蘭嶼とフィリピンのバタネス諸島に生育するアツバゲットウAlpinia zerumbet var. glabrescens(Ridl.)Funak.は、葉が厚く、葉形がずんぐりしていてより幅広であった。

図5 唇弁長
図 6 偽茎長
図 7 葉形比

3.精油含量と精油成分の地理的な変異

ハナソウカから工業的に多く精油採取がされている理由のひとつにその精油含量の多さがある。表1に示したように、母島と南大東のハナソウカの精油含量は、他の琉球列島や台湾のシマゲットウの精油含量に比べておおよそ2倍から10倍多かった。香りの質もかなり異なり、筆者はシマゲットウの香りを甘い、郷愁を誘う香りだと感じるのに対し、ハナソウカの香りはどこかよそよそしい感じがして好きになれないのだが、これは後述の植物学的なバックグラウンドを知ってしまったせいであろうか。沖縄にはもち米の粉を黒糖と一緒にといたものを月桃の葉で巻いて蒸した、カーサムーチーという伝統的食品があるが(図8)、可食部に月桃の香りが移ってなかなかいいものである。ところが、うっかりシマゲットウじゃなくてハナソウカの葉でムーチーを作ってしまうと、子どもに食べさせるときに泣くという話を聞いたことがあるほど、香りは違うものらしい。精油成分の地理的な変異を表2に示した。ハナソウカの精油成分の特徴は、モノテルペンはβ-ピネン、1,8-シネオール、テルピネン-4-オールが多く、セスキテルペンは少ない。さらにフェニルプロパノイド類が確認されなかった点で他のシマゲットウと異なっている。精油成分の地理的な変異から、筆者は月桃の原産地はアジア大陸のどこでもなく、じつは台湾島であり、琉球列島のシマゲットウは人為的な導入によるものと推定しているのだが、詳しくは船越&児嶋(2008)の解説をぜひ読んでほしい。

表1 精油収率/表2 精油組成

4.ハナソウカの植物学的な起原

4-1.フレキシスタイリーとは

2001年に『ネイチャー』という科学の分野で世界的な権威のある雑誌に、月桃に近縁なショウガ科ハナミョウガ属の Alpinia blephalocalyx K.Schum.という種においては集団内の他殖を推進する“flexistyly”という新しいメカニズムがあることが中国西双版納熱帯植物園の李慶軍らによって報告され衝撃を与えた(Li et al., 2001)。図9を見てほしいが、最初、雌しべの先の柱頭が開花時には上向きなのに時間が立つに つれて下向きになるタイプ(cataflexistyly)と、開花時には柱頭が下向きでだんだん上向きになるタイプ (anaflexistyly) が 1 集団内に同程度混ざっていて、異なったタイプの個体同士の授粉を促進するというわけだ。最初、南大東島でフィールドワークをしていて不思議なことに気がついた。そのうちの片方のタイプ (cataflexistyly) しかないのだ。ハナソウカの開花の模様の動画は期間限定で youtube(https://youtu.be/H-Nu 4 erqsIQ、または“ハナソウカ”で検索)にアップしたので見てほしい。南北大東島で合計16集団370個体調べたが、ただの1個体もanaflexistylyのタイプは見当たらず、シマゲットウとは対照的であった(表3)。

4-2.RAPD法による解析

図 10 ハナソウカ _RAPD
図 11 北大東ハナソウカ列植

そこで次にRAPD法(10bp程度の任意な配列のプライマーをPCRに用い、増幅したDNAの長さの違いからDNA多型を検出するという方法)でDNAを調べたところ、なんと、南大東島(n=12)、北大東島 (n=8) 、八丈島(n=10)、母島(n=11)のハナソウカは調べた全個体で変異がまったく見られず、すべて1クローンだったという驚きの結果が出た(図10)。この結果によりハナソウカは全部、種子からではなく、ショウガ (Zingiber of ficinale Roscoe) と同じように人間が根茎を分割して運んで植えたものと推定できる。ハナソウカの個体数は母島や八丈島の個体数はたいしたことがないが、サトウキビの結束用にサトウキビ畑の縁に一列に密植されている(図11)南北大東島の個体数は膨大で、南大東島出身の西浜良修氏によると、1972年の沖縄返還当時にその数は最大だったといわれ、その個体数は40万株にも及ぶ。大東諸島の開拓の歴史が西暦1900年(明治33年)の玉置半右衛門による無人島上陸から100年少々に過ぎないことを思うと、ハナソウカの個体数の増加の尋常ならざる速さはなかなか感慨深い。

 
図 12 Alpinia_ITS

4-3.核DNAのITS領域の解析

南北大東島では、ハナソウカの果実ができないことや、花序がシマゲットウのように垂れ下がるのではなく、咲き始めこそきれいに下垂するものの徐々に横向きに蛇行してしまうこと、花粉稔性が低いことなどからその雑種性が強く疑われた。両親種の推定のため、日本と台湾のハナミョウガ属全7種と、南大東、北大東、母島、八丈から各1サンプルずつ、核DNAのITS領域のシークエンスを調べた。結果、図12の中で水色で示した4塩基の情報サイトの組み合わせを考えることにより、ハナソウカの両親種は、シマゲットウ(Alpinia zerumbet var. zerumbet)とウライゲットウ(Alpinia uraiensis)の一通りに決定することができた。DNAの塩基はアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)のたった4個しかないことは多くの人が知っていると思うが、この図12で、M=AorC、Y=CorTなので、時間がある方はぜひ確認してみてほしい。

4-4.葉緑体DNAのtrnK-matK領域の解析

核のDNAは両親種から半々に遺伝するのに対し、葉緑体のDNAは母系遺伝する。したがって葉緑体のDNAを手がかりにして調べれば、前段、ITS領域の解析により両親種が決定できたうち、母種が決定できることになる。今回、解析に用いた葉緑体trnK-matK領域の解析から、台湾島内でシマゲットウの2ハプロタイプのうち、A. zerumbet-1とハナソウカの塩基配列がまったく一致することがわかった(図13)。一方、ウライゲットウとは一致しなかったことから、花粉親がウライゲットウであると結論づけることができた。

図13 Alpinia_matK

5.ハナソウカの今後

ハナソウカはシマゲットウに比べて花が20%大きく、つぼみのピンク色も濃いことから、Google Imageで、“alpinia” “zerumbet“ ”flower” の3つのキーワードで画像検索してみるだけでほぼ同定でき、おおよそどこで栽培されているのか知ることができる。その結果、わかった驚くべき結果は、世界中の熱帯・亜熱帯でハナソウカは栽培されているものの、画像の掲載元として圧倒的に多いのはアメリカのハワイ、テキサス、フロリダ各州の商業ナーサリーであった。日本では園芸用のショウガ科植物の組織培養による繁殖はほとんど行われていないが、アメリカでは非常に安価でごく普通に行われていることが関係しているかもしれない。ただ、分類学者として言わせてもらうと、そのほとんどが英名シェルジンジャー (=Alpinia zerumbet、シマゲットウ)として誤同定されており責任を感じる。また、一方で、先に述べたようにハナソウカの果実はめったにできないが、シマゲットウとハナソウカが同所的に栽培されている沖縄本島内の場所では結実率は悪いものの果実ができ、その果実から得られた種子は約43%の発芽率があったことを筆者が実験で確かめたのは前述したとおりである。ハナソウカの花粉の稔性は低いことから、シマゲットウ由来の花粉がハナソウカの柱頭に運ばれるとそれに伴うF2の子孫ができることになる。月桃のタネは鳥がよく散布することから、このことは本来、日本に分布していないウライゲットウの外来遺伝子が野生に広まる可能性があることを示しており、遺伝子汚染が懸念されている状況でもあるといえる。南大東島では今でもハナソウカの偽茎から簡易ロープを作る方法が伝わっている(図14)。100年前に玉置半右衛門がダイトウビロウの手つかずの原生林だった大東諸島を開拓してサトウキビ・プランテーションを始めたときに、収穫したサトウキビをしばるのに偽茎長が琉球列島のシマゲットウより50%も長い(図4)ハナソウカが選ばれて、台湾から冬季のサトウキビ収穫期の季節労働者とともに、ウライゲットウとシマゲットウの雑種であるハナソウカの根茎が、その花の美しさも相まって台湾北部からわざわざ遠く離れた大東諸島まで運ばれたと考えざるを得ない。

図13 Alpinia_matK
図14 結束用縄作り

謝辞

本稿を書く機会を与えていただいた日本メディカルハーブ協会理事・トトラボ代表の村上志緖博士に感謝いたします。また原稿を読んでいただき貴重なコメントをくださった岡山理科大学生物地球学部の池谷裕幸教授、学名についてご教授くださった京都大学総合博物館の永益英敏教授に感謝いたします。

(引用文献)

  • 傳田哲郎, 2008, 月桃の植物学, aromatopia 88:2-5.
  • 呉継志(原田禹雄訳注)2002, 質問本草, 榕樹出版, 宜野湾.
  • 船越英伸・児嶋脩, 2008, 月桃の和名・学名・地方名の解説と精油成分の地理的変異, aromatopia 89:43-47.
  • 呉継志(原田禹雄訳注)2002, 質問本草, 榕樹出版, 宜野湾.
  • Li,Q.J.etal.2001, Flexible Style that Encourages Outcrossing, Nature 410:432.
BRIC Inc. 代表 / 元高知県立牧野植物園研究員
船越 英伸 ふなこし ひでのぶ
博士(理学)。Botanical Research Institute of Chiba [BRIC Inc.] 代表。
東京大学農学部林学科卒。東北大学理学系研究科単位取得満期終了。フィリピン大学ディリマン校訪問研究員、高知県立牧野植物園植物研究科研究員を経て現職。西はインドから東はフィジーまで東南アジアを中心に、専門にしているハナミョウガ属の分布域全域にわたってショウガ科の分類の研究をしている。そのほかに、熱帯の未利用有望遺伝資源植物の探索も行っている。
ブログ「ショウガをめぐる冒険 」:

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月