2018.3.1.

ソウパルメットの成分と排尿トラブルへの利用

静岡県立大学大学院薬学研究院 特任教授

山田静雄

はじめに

近年の医学・医療の目覚ましい進歩や生活(衛生)環境の整備により、多くの病気の治療が可能になった一方で、疾病構造も急性疾患から生活習慣病中心の慢性疾患へシフトするとともに、心の病が増え医療費は増加の一途をたどっている。さらに人口の年齢構成変化と健康意識変化と相俟って、生活の質(QOL)を重視した医療が強く求められている。こうした現況において、最新の研究により一部の伝統医療(Traditional Medicine : TM)や補完代替医療(Complementary Alternative Medicine : CAM)の科学性と有効性が実証されつつあることから、これらを現代西洋医学と組み合わせた「統合医療」(Integrative Medicine : IM)の実践により、費用対効果が高く QOL を重視した医療の実現が期待されている。超高齢社会において、健康寿命の延伸と患者の QOL を重視した医療の実現には、薬と食・栄養を基盤とした統合医療が重要になると考えられる。実際に、健康増進や疾病の予防・治療を目的として、メディカルハーブ類をはじめ機能性食品・漢方薬などへの関心が高まっている(1)山田静雄:健康寿命の延伸と機能性食品の補完医療的効用. 薬剤学 77: 1-6(2017)

機能性食品

機能性食品やサプリメントは、第一に通常の食生活では不足している栄養素を補う働きに加え、健康を維持・増進し老化に伴う疾病への罹患や危険因子を減らす目的で使用される。最近の研究から、患者における補完医療的効果も明らかになっている。現在、機能性食品は、健康効果を表示できる保健機能食品として、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品に分類される。薬は単一な化学成分により単一な標的部位に作用するのに対し、食品の作用の場合には、多成分による複数の標的部位への作用と各成分による相互作用の総和と考えられる。

排尿トラブルにおける補完医療的効用

欧米では、民間薬として伝承されてきたハーブ類を医療の現場において積極的に活用しており、本邦でも健康食品として容易に入手可能であるが、有効性についてそのメカニズムを含めた科学的検証はいまだ十分とはいえない。我々は、排尿トラブルの改善に使用されるハーブ類のノコギリヤシ果実エキスの有効性および安全性について検討してきた。

ヤシ科シュロ属のノコギリヤシ(Saw palmetto)は、北米原産の低灌木で、南東部の海岸地帯の砂丘の松林に生息している。ノコギリヤシ果実エキスは、飽和・不飽和脂肪酸が90% 以上を占め、その他、高級アルコールおよびステロールなどで構成されている。ノコギリヤシ果実エキスは、5α -リダクターゼ阻害や抗アンドロゲン作用などにより前立腺の肥大を抑制し排尿トラブルを改善することから、処方薬や健康食品として用いられる。その他の薬理作用として、抗炎症作用、細胞増殖抑制作用、鎮痙作用などが知られているが、新たな薬理作用も報告されている (Fig.1参照)。

おわりに

ノコギリヤシに関する基礎および臨床試験から得られた知見は、排尿障害の症状軽減に有効であることを示唆している。本エキスは組成が複雑で多成分を含むために、その薬理作用には複数の作用メカニズムが関与しており、それぞれの作用の総和が臨床効果となって現れると考えられる。高齢化が進むに従い、排尿トラブルを訴える人は増加し、ノコギリヤシなどの機能性食品への期待は今後ますます増加すると予想される。健康長寿の延伸のためには、機能性食品の健康効果や安全性に関する正確な情報提供と、その基盤となる科学的エビデンスの構築が不可欠である。

Fig.1

実験動物における薬理作用

ラットのシストメトリー法による膀胱内圧測定実験により、ノコギリヤシ果実エキスが、酢酸誘発頻尿ラットにおいて、排尿間隔、1回排尿量および膀胱容量を有意に増加し、頻尿改善作用を示すことが明らかになった。

この作用は正常ラットに比べ頻尿ラットにおいて低用量で発現したことから、病態特異的である可能性が示された。近年、前立腺肥大による排尿トラブルにおいて、高血圧や糖尿病などの生活習慣病が危険因子となることが疫学調査により示されている。2型糖尿病モデルとして実験に用いられる Goto-Kakizakiラットでは加齢に伴い、1回排尿量の減少とともに排尿回数の増加および頻尿症状がみられる。ノコギリヤシ果実エキスおよびノコギリヤシ果実エキスの主要構成成分であるオレイン酸とミリスチン酸の脂肪酸混合物の反復投与によって、Goto-Kakizakiラットにおける排尿障害の改善作用が認められた。これより、ノコギリヤシ果実エキスの薬理作用にはオレイン酸やミリスチン酸などの脂肪酸が関与することが示唆された。

排尿障害治療薬の作用部位となる下部尿路系自律神経受容体に対する結合活性の測定 験から、ノコギリヤシ果実エキスは前立腺や膀胱のα1 受容体ムスカリン性受容体などの薬理学的受容体に結合活性を示すことが明らかとなった。(2)伊藤由彦, 影山慎二, 山田静雄:前立腺肥大による下部尿路症状に対する機能性食品.機能性食品と薬理栄養. 10: 268-273(2017)(3)Oki T, Suzuki M, Nihioka Y, et al.: Effects of saw palmetto extract on micturition reflex of rats and its autonomic receptor binding activity. J Urol. 173: 1395-1399(2005)これらの受容体結合活性には、ノコギリヤシ果実エキスに含まれる遊離脂肪酸のオレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸およびリノール酸などが関与することが示唆された 2 )。このように、ノコギリヤシ果 実エキスが、現在臨床応用されている医薬品と同様な薬理作用機序を示すことは興味深い知見である。

排尿トラブル患者における効果

α1 遮断薬を長期内服している前立腺肥大症患者において、ノコギリヤシ果実エキスを併用することにより、α1遮断薬の単独と比較して残尿量が有意に減少した(図2)。

また、最大尿流量率の増加傾向および国際前立腺スコア(IPSS)の刺激症状の減少傾向が認められた。この結果はノコギリヤシ果実エキスと医薬品の併用により補完的効果が期待できることを示している。

Kageyama ら(4)Kageyama S, Beppu M, OhnogiH, et al.: Clinical effect of formulated food of peucedanum japonicum extract and saw palmetto extract in male patients with lower urinary tract symptoms. Lower Urinary Tract Symptoms(LUTS), 2017 Feb 4. doi: 10.1111/luts.12155. [Epub ahead of print].は、下部尿路症状を訴える男性患者において、ノコギリヤシ果実エキスとボタンボウフウエキスを配合した食品を 4 週間連続服用することにより、自覚所見の有意な改善、夜間排尿関連指標も有意な改善、その他の自覚症状の改善傾向を見出した。また、患者の印象として、「良い」以上が 75 %であった。以上より、ノコギリヤシ果実エキスは夜間頻尿などの排尿トラブルを改善することが示唆された。同様に、ノコギリヤシのヒトにおける排尿トラブルに対する有用性が示されている。(5)Debruyne F, Boyle P, Da Silva FC, et al.: Evaluation of the clinical benefit of Permixon and tamsulosin in severe BPH patients-Permal study subset analysis. Eur Urol, 45: 773-780(2004)(6)Najima M, Munekata M, Nishikata H.: Improvement of urination difficulties by supplement contained saw palmetto extract. 診療と新薬、54:141-150(2017)

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1. 山田静雄:健康寿命の延伸と機能性食品の補完医療的効用. 薬剤学 77: 1-6(2017)
2. 伊藤由彦, 影山慎二, 山田静雄:前立腺肥大による下部尿路症状に対する機能性食品.機能性食品と薬理栄養. 10: 268-273(2017)
3. Oki T, Suzuki M, Nihioka Y, et al.: Effects of saw palmetto extract on micturition reflex of rats and its autonomic receptor binding activity. J Urol. 173: 1395-1399(2005)
4. Kageyama S, Beppu M, OhnogiH, et al.: Clinical effect of formulated food of peucedanum japonicum extract and saw palmetto extract in male patients with lower urinary tract symptoms. Lower Urinary Tract Symptoms(LUTS), 2017 Feb 4. doi: 10.1111/luts.12155. [Epub ahead of print].
5. Debruyne F, Boyle P, Da Silva FC, et al.: Evaluation of the clinical benefit of Permixon and tamsulosin in severe BPH patients-Permal study subset analysis. Eur Urol, 45: 773-780(2004)
6. Najima M, Munekata M, Nishikata H.: Improvement of urination difficulties by supplement contained saw palmetto extract. 診療と新薬、54:141-150(2017)
静岡県立大学大学院薬学研究院 特任教授
山田静雄 やまだ ・しずお
静岡県立大学大学院薬食研究推進センター長 / NPO 法人くすり・たべもの・からだの協議会理事長 / NPO 法人静岡県食育協会理事長。静岡薬科大学大学院博士課程修了後、アリゾナ大学医 学部博士研究員、静岡県立大学薬学部助教授を経て、2004 年教授に 就任。2014 年より現職。薬食研究による健康科学の実践研究。成人 血管病研究奨励賞、日本排尿機能学会賞の受賞。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第43号 2018年3月