2021.8.6.

フラボノイドの生体利用性と機能発現機構

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・食品機能学分野

寺尾純二

序論にかえて:フラボノイドと酸化ストレス再考

フラボノイドとはdiphenylpropane構造を基本骨格とする植物二次代謝産物であり、植物界に普遍的に存在する。植物由来ポリフェノール類の多くはフラボノイドであり、現在までに4,000種を超えるフラボノイド化合物が発見されている。それらの多くは、構造中のフェノール性水酸基がもつ還元力により抗酸化作用を発揮することが知られている。一方で、生体内の活性酸素種(ROS)発生と抗酸化物質によるROS消去のバランスがROS産生側に傾いた状態、すなわち酸化ストレスががんや心臓病をはじめとするさまざまな疾病に関与することが明らかになり、ROSを消去するフラボノイドの抗酸化作用に基づいた生理機能研究が活発に進められた。とくに、抗動脈硬化作用、抗がん作用、中枢神経保護作用に関連して多くの研究成果が得られている。しかし、生体内にはビタミンCやビタミンE、カロテノイド、尿酸などが抗酸化物質として存在しており、抗酸化酵素群によるROS消去系も働いている。一方、ヒトにとってフラボノイドは生体異物であり、吸収されにくい。吸収されても速やかに代謝され、多くはROS消去活性をもたない不活性体代謝物として血液循環した後に、体外に排出される。すなわち、体内に蓄積しやすいビタミンEやカロテノイドに比べてフラボノイドの摂取量は多いが、生体への蓄積性は低い。したがって、当初予想された生体内のROS消去系に対する食事由来フラボノイドの抗酸化作用の寄与は少ない、あるいは無視してよい1)。実際に、フラボノイドに富む果実摂取による見かけ上の血漿抗酸化活性の上昇はフラボノイド自体ではなく、フルクトースによる尿酸レベル上昇の結果である2)。

経口摂取したフラボノイドがそのままの構造で血漿に移行することは稀であり、主にPhase-II酵素反応を介した抱合体代謝物として、あるいは腸内細菌を介した分解産物として体内に移行する。さらに門脈経由の代謝物の一部は肝臓から胆汁に移行して消化管腔に排出されるため、消化管腔と肝臓を循環することになる(腸肝循環)。血流中に存在する代謝物や分解産物の一部が組織に移行して機能を発現すると思われる。しかし、摂取から排泄に至るフラボノイドのダイナミックな動きはほとんど解明されていない。ヒトにおけるフラボノイドの機能評価の問題点はここにある。機能発現における代謝変換の意義、標的組織における有効濃度の重要性が議論されるべきである。また、ROSを直接消去する抗酸化作用とは異なる機能を考えなければならない。

フラボノイドの疎水性平面構造は生体膜に対して親和性を有する。さらに、受容体や酵素、転写因子等のタンパクと選択的あるいは非選択的に結合する。ダイズイソフラボンのエストロゲン受容体への結合はよく知られた例であるが、Tachibanaら3)による茶カテキンの67kDaラミニン受容体(67LR)への特異的結合の報告を端緒として、ある種のフラボノイドは細胞内シグナル伝達経路を構成するリン酸化酵素(Raf,Fyn,MEK,PI3Kなど)を標的タンパク質にすることが明らかになってきた4)。細胞内に取り込まれたフラボノイドはこれらのタンパク質と結合することにより、シグナル伝達経路を介した遺伝子発現を調節することが可能である。しかし、これらはin vitro実験の結果であり、生体内でリン酸化酵素との結合を介した調節機能が発現するかどうかは十分に解明されていない。

一方で、遺伝子発現に関わる転写制御を担うさまざまな転写因子の活性化が、細胞内の酸化還元(レドックス)状態により制御されることが明らかになっている5)。したがって、上記の酸化ストレスの概念は、「レドックスシグナル伝達を混乱させて障害をもたらすとされるROS発生系(prooxidants)とROS消去系(antioxidants)間の不均衡」に言い換えられた6)。筆者らが考える酸化ストレスと抗酸化物質の関係を図1に示した7)。細胞内のレドックス状態が還元側から酸化側に、Hypoxia inducible fator-1(HIF-1)、Nuclear factor(erythroid-derived2)-related factor-2(Nrf-2)、Forkhead transcription factor(FoXO)、Activation protein-1(AP-1)、Nuclear factor kappaB(NFκB)の順に転写因子が活性化する。その結果、superoxide dismutase(SOD)やheme oxygenase(HO-1)などの抗酸化酵素群の発現が誘導されることにより、生体はレドックス環境変化に適応する(AdaptiveResponse)か、あるいはユビキチン−プロテアソーム系やオートファジーによる自己分解装置を働かせてストレスに耐える(Stress)。さらにレドックス状態が酸化側に傾くと、酸化ストレスが顕在化し、細胞死シグナルおよび炎症性サイトカインや炎症性酵素群の発現誘導によりアポトーシスからネクローシスへと細胞死が惹起する(Apoptosis、Necrosis)。摂取フラボノイドは細胞レドックス状態をadaptive responseやstressに同調させることで生理機能を発揮すると考えている。


図1 酸化ストレスと抗酸化物質の関係仮説(文献7を一部改変)

ケルセチンの脱抱合反応と血管機能

ケルセチンは野菜に含まれる代表的なフラボノール型フラボノイドであり、グルコースやルチノースがβ-グルコシド結合した配糖体として存在する。日本人女性の1日当たりのケルセチン平均摂取量は9.3㎎、その83.6%がタマネギ由来であるという報告がある8)。タマネギを摂取した場合のケルセチンの最大血漿濃度はμMオーダーであり、半減期は4時間程度である。腸管吸収されたケルセチンは、血流中ではほとんどが抱合体代謝物として存在する。抱合体代謝物は毒性を示さないが、生理活性も失われると予想される。しかし、ケルセチンの摂取は血管において抗炎症作用を発揮することが示唆されている。図2に筆者らが推定する経口摂取タマネギケルセチンの代謝変換と抗炎症作用の発現プロセスを示した。ケルセチン配糖体は消化管上皮において脱糖化し、アグリコンとして上皮細胞に取り込まれるが、直ちに抱合体代謝を受ける。門脈経由で肝臓に到達した代謝物はさらに代謝されるとともに、一部は腸肝循環に入る。さらに一部はアルブミンに結合して血液循環に移行し、最終的に腎臓から尿中に排泄される。しかし、炎症部位では活性化マクロファージによる脱抱合化反応が惹起し、生成したアグリコンがマクロファージ細胞に取り込まれ、inducible NOS(iNOS)やCOX-2などの炎症関連酵素の発現を低下させることにより、抗炎症作用を発揮すると思われる。実際にヒトの粥状動脈硬化巣にケルセチン代謝物(quercetin 3-β-D-glucuronide:Q3GA)が蓄積することを筆者らは抗Q3GA抗体を用いた免疫染色により確認した9)。さらに、細胞内に取り込まれたケルセチンは、MAPK経路のひとつであるJNKのリン酸化を阻害することによりiNOSやCOX-2発現を抑制できることをin vitro実験で明らかにした。すなわち、ケルセチンは活性化マクロファージを標的として抗炎症作用を発揮することができる。脱抱合に関与する酵素であるβ-グルクロニダーゼは、ミトコンドリアからのCa2+イオンの細胞質への流出を介して細胞外へ放出され、抱合体代謝物を脱抱合する10)。炎症反応が惹起すると血清β-グルクロニダーゼが上昇することはすでに知られていたが、β-グルクロニダーゼ阻害剤を用いた動物実験により、食餌由来ケルセチンの血管機能は脱抱合反応を介して発現することも示された11)。


図2 タマネギケルセチン配糖体の吸収代謝と脱抱合反応による活性化(文献7を一部改変)

脳への移行と中枢神経保護作用

筆者らは本誌No.15(24−27ページ,2011年)に、ケルセチンの抗うつ作用に関する総説において、ケルセチンはセロトニン代謝を担うmonoamine oxidase-A(MAO-A)の酵素活性阻害により、うつ病に関わる脳内ストレスを制御することを報告した。経口摂取したケルセチンが機能するためには標的部位に有効濃度で蓄積する必要がある。しかし、機能性を発現できるレベルにまでフラボノイドが脳に蓄積するかどうかは不明である。筆者らは、Q3GAモノクローナル抗体を用いてヒト脳組織の免疫染色を行い、Q3GAが脈絡叢に蓄積することを確認した12)。この事実は、経口摂取ケルセチンが血液−脳脊髄液関門を介して脳内に移行する可能性を示すものである。ケルセチンは神経細胞内ミトコンドリアに局在することで、ミトコンドリア外膜表面に存在するMAO-Aを効果的に阻害すると筆者らは推測した(図3)13)。

まとめ

本研究論文は平成26年10月19日に開催された第2回日本ハーブ療法研究会・第2回学術集会特別講演の発表内容をまとめたものである。とくに経口摂取フラボノイドの吸収・分布・代謝・排泄(Absorption:Distribution:Metabolism:Excretion:ADME)を明らかにし、消化管から標的部位への移行蓄積を基盤として生理機能評価をめざす筆者らの研究成果を中心に著述した。一方、フラボノイドの生理機能発現の標的部位としての消化管にも注目すべきである。生体に吸収されないカテキン重合物(プロシアニジン)は、腸管内で交感神経系を刺激することにより生体内標的部位への情報シグナルとして作用することが報告されている14)。また、フラボノイドはその還元力により胃内で硝酸・亜硝酸からの一酸化窒素(NO)産生を促進し、さらに胃から血流に移行したNOは内因性NOと同様に血管機能の維持に働くことが提唱されている15)。野菜にはフラボノイドとともに硝酸・亜硝酸が豊富に含まれることから、野菜由来フラボノイドの健康機能において胃内におけるNO産生との関わりを考慮すべきである。

また、摂取フラボノイドは腸内細菌叢により代謝分解されるのみならず、逆に腸内細菌叢を修飾することも明らかにされており16)、腸内細菌叢改善における摂取フラボノイドの役割についても注目すべきであろう。

フラボノイドの生理機能はmultipleであり、その標的はbroadであると考えられる。ヒトはその機能を巧みに利用しているのではないだろうか?


図3 脳内セロトニン代謝に対するケルセチンの作用機構(文献7を一部改変)

(参考文献)
1)P.C.Hollman et al.J.Nutr.,141,989-1009(2011)
2)S.B.Lotito and B.Frei,Free Radic.Biol.Med.,41,1727-1746(2006)
3)H.Tachibana et al.Nat.Struct.Mol.Biol.,11,380-381(2004)
4)A.Murakami and K.Ohnishi,Food Funct.,3,462-476(2012)
5)H.S.Marinho et al.,Redox Biol.,2,535-56(22014)
6)H.Sies Hand D.P.Jones,Oxidative stress.In:Encyclopedia ofstress:(FinkGed),45-48,Elsevier,San Diego(2007)
7)寺尾純二,日本栄養食糧学会誌,印刷中(2015)
8)Y.Arai et al.,J.Nutr.,130,2243-2250(2000)
9)Y Kawai et al.,J.Biol.Chem.,283,9424-9434(2008)
10)A.Ishisaka et al.,PLoS ONE,8:e80843(2013)
11)P.Galindo et al.,PLoS ONE,7:e32673(2012)
12)A.Ishisaka et al.,Arch.Biochem.Biophys.,557,11-17(2014)
13)Y.Bandaruk et al.Toxicol.Reports,1,639-649(2014)
14)Y.Matsuura et al.PLoS ONE,9,e112180(2014)
15)B.S.Rocha et al.Food Func.,5,1646-1652(2014)
16)K.Kawabata et al.Biofactors,39,422-429(2013)

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・食品機能学分野
寺尾純二 てらおじゅんじ
1975年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。京都大学農学博士。農林水産省食品総合研究所食品理化学部室長、徳島大学医学部栄養学科教授などを経て2004年より徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授。研究項目:食品機能成分の生体利用性と活性発現機構の解明、生体内脂質過酸化反応の機構と反応産物の生理作用の解析。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第31号:2015年3月