2017.3.1.

アーティチョークの機能成分シナロピクリン

一丸ファルコス(株)開発部研究開発課主査博士(医学)

田中清隆

遺伝子のスイッチ

私たち人間の身体の中には約2万個の遺伝子情報があり、さらに遺伝子のひとつひとつをコントロールするスイッチの役割をもつ物質があります。このスイッチが暴走して働くことによって、身体の中で炎症が進み、さまざまな病気や老化を進めていることがわかってきました。

炎症とは、体の中で起きる防御反応のひとつですが、例えば、火傷をしたり、かぜをひいたりしたときには患部やのどが赤く腫れます。また、ストレスで胃が痛んだり、日焼けして皮膚が赤くなるのも炎症反応です。この炎症反応は、さきほどの遺伝子のスイッチがたくさん暴れている状態ともいえます。したがって、そのスイッチをオフにすることがさまざまな病気や老化の進行を妨げてくれることにつながります。

遺伝子のスイッチの中で、比較的炎症に深くかかわり、さまざまな疾病に関与しているのがNF-κBエヌエフカッパビーというたんぱく質です。このたんぱく質は、紫外線やストレスによって増えることがわかっており、それを効率的に防ぐことが心身を護る上で重要と考えられています。

アーティチョークとシナロピクリン

アーティチョークはヨーロッパ地中海沿岸およびアフリカ北部が原産で、ヨーロッパ、特にフランスでは一般的な野菜として普及しています。最近では、日本でも高級野菜として認知されるようになってきました。アーティチョークは、開花直前のつぼみの総苞片の肉質部や葉を薬用、食用として使用するほか、その立派な花は切り花として観賞されます。花托と総苞にシナリンやクロロゲン酸、カフェ酸、タンパク質、カロテン、ビタミンCなどを含み、薬理作用としては葉や花托、総苞片に利尿、強壮、胆汁分泌促進、血中コレステロール低下、胆保護などの作用が知られており、動脈硬化や黄疸、消化不良、食欲増進などに用いられます。

葉はそのまま食べる以外にも、さまざまな成分を抽出してサプリメントや化粧品などの美容原料として実用化されています。特に、セスキテルペンラクトン類のシナロピクリンは、好条件下で生育した葉のみに存在し、優れた薬効をもつ成分として注目されています。実際にシナロピクリンは、前述の身体の炎症の原因である遺伝子のスイッチ(NF-κB)を特異的に抑制し、身体の衰えを予防改善することが確認されています(図1)。

図1アーティチョークエキスによる抗炎症効果

美容成分としてのシナロピクリン

紫外線などで起きる炎症によってシミやしわが増え、肌が老化することがよく知られています。そのため化粧品、医薬部外品にはさまざまな抗炎症成分が配合されています。アーティチョークの葉に含まれるシナロピクリンも、そんな肌の炎症を抑制することで、シミ、しわのほかにもさまざまな肌の悩みを予防改善します。

肌について近年増えている悩みのひとつに、「毛穴の目立ち」があります。近年の美肌ブームや、また高解像度を誇るデジタルカメラや4K画質テレビが登場し、より緻密な肌状態を見る機会が増え、肌の見え方に対する意識が高まったことも毛穴に対する関心が高まった理由のひとつだと考えられます。

毛穴が目立つ要因には大きく分けて3つあると考えられています。毛穴の「開き」「黒ずみ」「たるみ」です。実はこれらは肌の炎症が深くかかわっています。したがって、炎症を効率的に防ぐことができるアーティチョーク成分のシナロピクリンは、毛穴の目立つ原因をひとつずつ解決することができます(図2)。

興味深いことに、このシナロピクリンによる美容効果は、肌への外用塗布だけでなく、食用として摂取することでも得られます。しかし、シナロピクリンは非常に苦い成分であり、サラダなどで十分な量を食べることは難しいかもしれません。最近では、成分を効率的に摂取するためのサプリメントも開発されています。

健康維持成分としてのシナロピクリン

食品として体内に成分を取り込む場合、当然、肌以外にもその効果は広がります。

身体の中ではさまざまなイベントが起きており、それらのバランスが崩れたときに炎症が起きます。炎症は、異常の引き金のようなものであり、その発生した場所によってさまざまな反応をもたらします。それがときとして、病気や老化につながります。

例えば、ストレスによって胃がキリキリと痛むとき、胃の中では炎症が活発に起きています。過度のストレスによって胃炎から胃潰瘍へと悪化することも珍しくありません。アーティチョーク成分のシナロピクリンにはストレス性の炎症を改善する研究データがあります。また、古くから報告されている肝機能の改善効果も確認されています。

また、社会の高齢化に伴い、活動的な高齢者が増えています。同時に膝や腰といった関節の痛みに関する悩みも増えています。膝の軟骨は加齢とともにすり減り、新しい軟骨ができにくくなります。軟骨は骨を接続するクッションのような働きをするため、このクッションの減少によって痛みを伴うようになります。シナロピクリンは軟骨を壊す物質の産生を抑制することが報告されており、膝をはじめとする関節痛の緩和に効果があることが示唆されています。

図2アーティチョークエキスによる抗炎症効果(毛穴)

アーティチョークの魅力

アーティチョークは、欧米では野菜やサプリメントとして、東南アジアのベトナムでは「涼しくなるお茶」として食されるなど、世界中で身体を守り、身体をつくる植物として活用されています。その中にはさまざまな生理活性成分が含まれており、そのひとつがシナロピクリンです。この特徴的な成分が、私たちの美容と健康を守る一助になることが期待されます。

一丸ファルコス(株)開発部研究開発課主査博士(医学)
田中清隆 たなか・きよたか
信州大学大学院農学研究科修了後、一丸ファルコス(株)入社。その後、名古屋市立大学大学院医学研究科修了、博士号取得(医学)。主に植物由来成分の機能性解析および化粧品原料開発に従事。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第39号 2017年3月