2017.9.1.

生活習慣病の予防に役立つミカンに多いβ-クリプトキサンチン

農業・食品産業技術総合研究機構カンキツ流通利用・機能性ユニット長

杉浦実

1.はじめに

β-クリプトキサンチンはオレンジや柿などの果物に広く含まれていますが、日本のウンシュウミカン(以下、ミカン)に特徴的に多く含まれているカロテノイド色素です。カロテノイド色素にはニンジンやカボチャに多いβ-カロテンやトマトに多いリコペンなどがよく知られていますが、ヒトの体内に存在する主要なカロテノイドとしては、β-クリプトキサンチン、β-カロテン、α-カロテン、リコペン、ルテイン、ゼアキサンチンの6種があります(図1)。近年の欧米人を対象にした疫学研究から、6種のカロテノイドの中でも特にβ-クリプトキサンチンに肺がんリスクの低減効果が認められたとする報告が相次ぐなど、β-クリプトキサンチンに際立った新たな生体調節機能が幾つか報告されるようになってきました。

農研機構果樹茶業研究部門では、ミカンの摂取がどのような生活習慣病の予防に役立つかを明らかにするために、国内有数のミカン産地である静岡県三ヶ日町の住民を対象にした栄養疫学調査(三ヶ日町研究)を平成15年度から行ってきました。

2.ミカンの摂取と健康に関する栄養疫学調査(三ヶ日町研究)

三ヶ日町研究は平成15年度より静岡県引佐郡三ヶ日町(現浜松市北区三ヶ日町)の住民1,073名を対象とした栄養疫学調査です。当研究部門と浜松医科大学、そして当時の三ヶ日町役場住民福祉課の3機関合同による調査として開始されました。三ヶ日町では住民の多くがミカン産業に従事しているため、ミカンの摂取量が著しく多い地区といえます。また一方で殆どミカンを食べない住民もいるため、血中β-クリプトキサンチン値が幅広く分布している集団であり、β-クリプトキサンチンの有用性を疫学的に検出しやすいという利点があります。

2-1.10年間にわたる追跡調査から明らかになったこと(ミカンをよく食べる人)

これまでに調査開始時のベースラインデータを用いた横断研究からは、ミカンをよく食べ血中β-クリプトキサンチンレベルが高い人ではさまざまな生活習慣病のリスクが低いことが明らかになりましたが1)、これらの研究は、結果(病気の有無)と原因(ミカンや血中β-クリプトキサンチン)を同時に調査解析しているので、結果が先なのか原因が先なのかは不明であり、ただ相関が確認されたに過ぎません(横断研究の限界)。そのため、β-クリプトキサンチンが病気を予防したのかを明らかにするためには、次に縦断研究により検討する必要があります。つまり健康な人だけを選び出し、その後何年間も追跡調査を行い、その人たちの病気の発症率がミカンをよく食べていた人とそうでない人とでどのような差が出るかを比較検証する必要があります。三ヶ日町研究では開始当初から10年間の追跡調査を目標にして、ベースライン調査以降も協力者の健康状態の変化を毎年調べるという作業を繰り返し取り組んできました。そして10年間の追跡調査から数々の新たな知見が得られました。

図1 ヒト血中に存在する主要なカロテノイド

2-2.骨粗しょう症の発症リスクが有意に低い

図2 血中β-クリプトキサンチンレベル別にみた4年間での骨粗しょう症発症リスク

三ヶ日町研究の横断研究から、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い閉経女性では有意に骨密度が高いことが既に判明しています。そこでベースライン調査の時点で骨粗しょう症を有さない人だけを対象に追跡調査を行ったところ、血中のβ-クリプトキサンチンが高濃度のグループにおける骨粗しょう症の発症リスクは、低濃度のグループを1.0とした場合0.08となり、統計的に有意に低い結果となりました(図2)。またこの関連は、ビタミンやミネラル類の摂取量などの影響を取り除いても統計的に有意でした。同様にβ-カロテンにおいても血中濃度が高いグループほど発症リスクが低くなる傾向が認められましたが、有意な結果ではありませんでした。

2-3.脂質代謝異常症の発症リスクが有意に低い

図3 血中β-クリプトキサンチンレベル別にみた脂質代謝異常症の発症リスク

これまで三ヶ日町研究の横断研究から、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者ではメタボリックシンドロームのリスクが低いことがわかっています。

そこでベースライン調査の時点でメタボリックシンドロームを有さない被験者を対象にその後10年間にわたり追跡調査を行いました。その結果、メタボリックシンドロームの発症リスク低減には関連が認められませんでしたが、ベースライン時の血中β-クリプトキサンチンレベルが高かった人では、脂質代謝異常症(高中性脂肪血症)の発症リスクが約33%低下することが判明しました(図3)。

2-4.肝機能異常症の発症リスクが有意に低い

図4 血中β-クリプトキサンチンレベル別にみた肝機能異常症の発症リスク

これまで三ヶ日町研究の横断研究から、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者では、飲酒が原因による血中γ-GTP高値のリスク、および高血糖者での血中ALT値高値のリスクが有意に低いことがこれまでに明らかになっています。そこでベースライン調査の時点で肝機能が正常な被験者を対象にその後10年間にわたり追跡調査を行いました。その結果、ベースライン時の血中β-クリプトキサンチンレベルが高かった人では、肝機能異常症(血中高ALT値)の発症リスクが約49%低下することが判明しました(図4)。

2-5.動脈硬化症の発症リスクが有意に低い

図5 血中β-クリプトキサンチンレベル別にみた動脈硬化症の発症リスク

これまで三ヶ日町研究の横断研究から、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者では、上腕-下肢間の脈波速度で評価した動脈硬化指標が有意に低いことがこれまでに明らかになっています。そこでベースライン調査の時点で動脈硬化症状を有さない正常な被験者を対象にその後10年間にわたり追跡調査を行いました。その結果、ベースライン時の血中β-クリプトキサンチンレベルが高かった人では、動脈硬化の発症リスクが約45%低下することが判明しました(図5)。

2-6.2型糖尿病の発症リスクが有意に低い

図6 血中β-クリプトキサンチンレベル別にみた2型糖尿病の発症リスク

インスリン抵抗性はインスリン分泌低下とともに、糖尿病の発症や状態に大きく関わっており、特にインスリン非依存型糖尿病(2型糖尿病)患者で重要な病態です。現在糖尿病でなくてもインスリン抵抗性が高い人ではそうでない人に比べて糖尿病に罹る率が高くなることが近年の疫学研究から明らかとなっており、またインスリンの過剰な分泌は血圧の上昇や脂質代謝の異常も引き起こし、動脈硬化を引き起こす原因にもなります。これまで三ヶ日町研究の横断研究から、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い被験者ではインスリン抵抗性のリスクが有意に低いことが明らかになっています。そこで調査開始時に既に糖尿病(空腹時血糖値が126mg/dL以上)であった被験者を除き、調査開始時の血中β-クリプトキサンチン値と2型糖尿病の発症リスクとの関連について調べたところ、血中β-クリプトキサンチン濃度が高かった人では低かった人たちに比べて2型糖尿病の発症リスクが約57%低くなることがわかりました(図6)。果物はその甘さ故に高糖・高カロリーと誤解されることが多く、糖尿病には良くないと捉えられることが多い食品ですが、実際には大半が水分であり、むしろ低カロリー食品といえます。β-クリプトキサンチンの豊富なミカンを積極的に食べることで糖尿病の予防につながるかもしれない大変貴重な知見です。

3.機能性表示食品へ

2015年4月より、消費者庁において「新たな食品の機能性表示制度」が始まりました。本制度ではミカンなどの生鮮物にもその科学的根拠を示せれば事業者の責任で機能性表示が可能になります。

今後、生鮮物の消費拡大のための大きな起爆剤になることが期待されます。生鮮物としてのミカン、あるいは果汁飲料などの一次加工品については、これまでの三ヶ日町研究で得られた観察研究のデータにより、本制度への申請が可能になります。今回の表示制度では当初からミカンが最も可能性の高い生鮮食品と期待されており、JAみっかびでは早くから申請に向けての準備が行われました。そして2015年9月には生鮮物では初めて機能性表示食品として消費者庁に登録されました(受付番号A79)。

同年11月の早生ミカンから、段ボール等の包装資材に「本品にはベータークリプトキサンチンが含まれています。ベータークリプトキサンチンは骨代謝の働きを助けることにより骨の健康に役立つことが報告されています」と表記して販売が開始しました。また加工品についても(株)えひめ飲料が開発したβ-クリプトキサンチン高含有ミカン果汁飲料「アシタノカラダ」も機能性表示食品として登録されました(受付番号A105)。その後、各産地での取り組みも広がり、2017年7月の時点で、生鮮物のミカンではJAみっかび以外にもJAとぴあ浜松とJA清水、JA南駿が受理登録されています7)。

また100%果汁飲料で2件、サプリメント形状の加工食品では2件が受理登録されています。当機構より公開されているシステマティックレビューでは、ミカンで表示できる機能性はまだ骨関係のみとなっていますが、今後、三ヶ日町研究の10年後調査の論文を科学的根拠として、骨だけでなく糖尿病や動脈硬化、また肝機能など、さらに幅広いヘルスクレームが可能になると期待されます。本表示制度を活用することで、今後さらに、ミカンの消費拡大につながるでしょう。

各産地での取り組みに期待しています。

4.おわりに

現在、各産地におけるミカン中のβ-クリプトキサンチン含有量について、品種や産地による違いを全国規模で調査を行っています。その結果、極早生、早生および晩生品種のいずれにおいても糖度とβ-クリプトキサンチン含有量は極めて良く相関し、極早生品種であっても糖度が10度以上であれば、ほぼ確実に1mg以上のβ-クリプトキサンチンを含有することが明らかになりました(可食部100g当たり)。これらのデータを公開することで、どの産地のミカンでも糖度を担保すれば必ず一定量以上のβ-クリプトキサンチンが含まれていることを裏づける科学的データとなり、産地や品種ごとに含有量データを調べる必要がなくなると考えられます。また現在、ミカン以外の中晩柑類でもβ-クリプトキサンチンを高含有する新品種が数多く開発されていますが、これら中晩柑類もミカンと同様に健康効果が期待でき、今後さらにβ-クリプトキサンチンを含有する国産柑橘類の消費拡大が期待されます。
一方、私たちはミカンの摂取が2型糖尿病の発症リスク低減に有効であることを三ヶ日町研究から明らかにしました。果物は甘いのでカロリーが高く、糖尿病に良くないという誤った認識が消費者だけでなく、医療従事者にも多くありましたが、三ヶ日町研究はこの誤った常識を覆す大きな成果といえます。またこれまでに、糖尿病であってもミカンを多く食べる人では肝機能異常が少ないことを明らかにしており、ミカンが糖尿病の予防だけでなく、既に糖尿病であっても積極的に食べることで高血糖に伴う合併症の予防等に役立つことが期待できます。
今後、さらに骨代謝以外のミカンの健康効果も販売戦略に活かし、消費者に積極的にPRすることで消費拡大につながることを期待しています。

(参考文献)

  1. Sugiura,M.Yakugaku Zasshi 135(1):67-76(2015).
  2. Sugiura,M.et al.,PLOS ONE 7(12):e52643(2012).
  3. Sugiura,M.et al.,Br.J.Nutr.,114(10):1674-1682(2015).
  4. Sugiura,M.et al.,Br.J.Nutr.,115(8):1462-1469(2016).
  5. Nakamura,M.et al.,Nutr.Metab.Cardiovasc.Dis.,26(9):808-814(2016).
  6. Sugiura,M.et al.,BMJ Open Diabetes Res.Care,3:e000147(2015).
  7. 消費者庁ホームページhttp://www.caa.go.jp/foods/index23.html
農業・食品産業技術総合研究機構カンキツ流通利用・機能性ユニット長
杉浦実 すぎうら・みのる
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 カンキツ流通利用・機能性ユニット長
すぎうらみのる薬学博士。ミカンなど国産主要果実の健康機能性に関する研究を細胞レベルからヒトレベルまで幅広く実施している。これらの産学官連携による研究成果を生鮮物として初めて機能性表示食品につなげた。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第41号 2017年9月