2017.9.1

クランベリーの植物学と栽培、人との関わり

博士(農学)

木村正典

分類・名称

クランベリー(cranberry)はツツジ科(Ericaceae)スノキ属(Vaccinium)で最広義にはツルコケモモ亜属(subg.Oxycoccus)の総称であり、広義にはツルコケモモ節(sect.Oxycoccus)を、狭義にはツルコケモモ(Vaccinium oxycoccos L.)とオオミノツルコケモモ(V.macrocarpon Aiton)の2種を指します。

The Plant Listにはスノキ属に223種が認められており、ブルーベリー(数種の総称)やビルベリー(V.myrtillus L.)、グラウスベリー(V.scoparium Leiberg ex Coville)などがあります。カウベリー(V.vitis-idaea L.)とリンゴンベリー(V.vitis-idaea subsp.minus(Lodd.,G.Lodd.&W.Lodd.)Hultén)もスノキ属で、和名をコケモモといい、mountain cranberryとも呼ばれますが、スノキ亜属であってクランベリーではありません。スイカズラ科(レンプクソウ科)ガマズミ属にもクランベリーの名をもつものがあり、アメリカカンボク(Viburnumtrilobum Marshall)もAmerican cranberrybush,high bush cranberry,cranberrybush viburnumと呼ばれていますがクランベリーではありません。

最広義のクランベリーであるツルコケモモ亜属にはツルコケモモ節(sect.Oxycoccus)とアクシバ節(sect.Oxycoccoides)の2節が、広義のクランベリーであるツルコケモモ節にはV.oxycoccos L(.以下、ツルコケモモ)とV.macrocarpon Aiton(以下、オオミノツルコケモモ)、V.microcarpum(Turcz.ex Rupr.)Schmalh(.以下、ヒメツルコケモモ)の3種が、ツルコケモモにはsubsp.microphyllumという亜種があります。アクシバ節にはV.japonicum Miq.(アクシバ)とV.erythrocarpum Michx(.southern mountain cranberry)の2種が、V.japonicum Miq.にはvar.lasiostemon(ランダイアクシバ)とvar.sinicumの2変種が知られていますが、Kloet&Bohm(1991)はV.japonicum Miq.をV.erythrocarpum Michx.の亜種とすべきとしています。

クランベリー類のうち商業生産されているのは欧州ではツルコケモモ、北米ではオオミノツルコケモモであり、この2種が狭義のクランベリーです。最狭義のクランベリーは欧州ではツルコケモモですが、全世界のクランベリー生産量の98%が北米(うち57%がウィスコンシン州、27%がマサチューセッツ州)産であることから、オオミノツルコケモモを最狭義のクランベリーとする記述が多く見られます。日本にはツルコケモモやヒメツルコケモモ、アクシバ類が自生し、栽培化も研究されていますが商業生産はまだです。中薬大辞典にクランベリー類の記載はありません。

クランベリー類の学名には、Oxycoccus属やSchollera属などとするシノニムがあります。

ツルコケモモの英名は単にcranberryというほかにbog cranberry,common cranberry,European cranberry,fenberry,northern cranberry,small cranberry,swamp cranberry,wild cranberryなどといい、オオミノツルコケモモはAmerican cranberry,large cranberry,bearberryなどといいます。また、カナダではクランベリーをmossberryともいい、アメリカンインディアンのアルゴンキン族はsassamanash、ナラガンセット族はsasemineash、ワンパノアグ族とレナペ族はibimiと呼びます。

属名のVaccinium(ウァッキニウム)の語源には「牡牛の」、「ベリー」、「濃い色の花」など複数の説があります。種小名のoxycoccos(オキシコッコス)は「酸っぱい液果の」を、macrocarpon(マクロカルポン)は「大きい果実の」を、microcarpon(ミクロカルポン)は「小さい果実の」を、erythrocarpum(エリトゥロカルプム)は「赤い果実の」を意味します。

英名のcranberryは、鶴(crane)が食べることから、あるいは花のつく様子が鶴に似ていることから、新大陸に渡ったオランダとドイツの移民によってcrane-berryと呼ばれたことに由来します。

オオミノツルコケモモ(大実蔓苔桃)は大きい実の蔓性の苔桃(苔状に茂る実のなる植物)の意味です。

ニュージャージー州でのクランベリーの収穫風景。収穫期にクランベリー畑に水を張ってクランベリーを水没させた後、機械で木を揺らして果実を水面に浮かせ、それを集めて収穫。

形態

クランベリー類は常緑小低木で、高さはツルコケモモで10cm、オオミノツルコケモモで20cm程度で、匍匐ほふく枝を伸ばして広がり、節から直立枝を分枝するとともに根も出します。匍匐枝はツルコケモモで30~60cm、オオミノツルコケモモで90~120cmです。

葉は互生し、長楕円形で先端が尖り、照葉、全縁で葉柄は極めて短く、葉長はツルコケモモで0.8cm、オオミノツルコケモモで1.7cm程度になります。

花は、直立枝の先端付近の葉腋に着生し、葉腋から3~8cmの花柄が上に伸び、その先に鶴が首を傾げるように下向きにつきます。合弁花で、深裂した4枚の花弁がカタクリのように反り返ります。ツルコケモモは5~7月に桃色の花を、オオミノツルコケモモは6~8月に淡桃~白色の花を咲かせます。

果実は赤~暗赤色の球形~卵形で、ツルコケモモで果実径1.2cm、果実重1~1.5g、オオミノツルコケモモで果実径2cm、果実重1~2.5g程度になります。果実には4つの空洞の房室があり、各房室に4粒程度、1果あたり合計16粒ほどの種子があります。

栽培

北半球の亜寒帯地域を原産とし、酸性の沼地に自生しています。寒さには強く、雪の下であれば外気温が氷点下40°Cになる地域でも耐えますが、暑さが苦手で、果実の形成される6~8月の生育適温は16~30°Cであり、日本では北海道や高冷地が栽培適地です。

繁殖は種子もしくは挿し木、株分けで行います。種子繁殖の場合、休眠があるので低温で休眠を打破する必要があります。種子を吸水させて湿らせたまま20°Cで2週間程度置いた後に、2~5°Cの冷蔵庫に1ヵ月~1ヵ月半置いて休眠を打破させ、その後、10°C前後に3週間ほど置いて発芽させるか、あるいは湿った状態で0~7°Cの冷蔵庫に3ヵ月置いてから播種はしゅ/rt>します。挿し木繁殖の場合、ビルベリーやブルーベリーと同じ要領で行います。匍匐枝から発根している場合は、株分けが最も確実な繁殖方法です。最初は苗を購入し、その後は自分で殖やしてみましょう。

ツツジ科の特徴として、やせた酸性土壌に適応しています。苗を植えつける際、土を酸性にするためにpH未調整のピートモスを用いて、土:完熟牛糞堆肥:ピートモス=3:1:4くらいの割合に混ぜます。2年目以降は、浅く張る根の乾燥を防ぐ意味でも、腐葉土などの有機物と土を混ぜたものを、株元から離してドーナツ状に敷きます。多肥にならないようにしましょう。

寒冷地の沼地に自生する植物ですので、日本の暑い夏は苦手です。半日陰で乾燥に注意します。

花芽分化には低温が必要です。冬期は雪の下で越冬させるなど、寒害に気をつけながら低温に遭遇させましょう。北米では粘土質の湿地を平らにしてその上に砂を8cmほど敷いた特殊な圃場に植えつけて栽培し、積雪の少ない地方では寒害対策として60cmほど水を張って完全に水没させたまま越冬させています。

自家受粉でも結実しますが、数株植えて虫に受粉してもらうと結実数が増えます。播種から結実までに5年ほどかかりますが、その後100年は実をつけるといわれています。収穫期は9月下旬から11月上旬です。1960年以降の北米での収穫方法は極めて大胆であり、収穫時期に池のように水を張って完全に水没させ、水中の木を揺すって果実のみを水面に浮かせ、それを集めて収穫します。樹上で乾燥したものを収穫しているところもあります。深刻な病害虫はありません。

ツルコケモモの品種にはエストニアの‘Kuresoo’, ‘Maima’, ‘Nigula’、ロシアの‘Dar Kostromy’, ‘Krasa Severa’, ‘Sazonovskaja’、リトアニアの‘Reda’, ‘Vaiva’, ‘Vita’などがあります。オオミノツルコケモモには多収性の‘AJ’,‘Centerville’,‘DF5’,‘Thunder Lake3’,‘Wilcox’,‘WSU108’など、果色の濃い‘Ben Lear’, ‘Crowley’, ‘Early Black’, ‘Franklin’ など、果実の大きい ‘Bain’, ‘Bain favoriteNo.l’, ‘Crimson Queen’, ‘Demoranville’, ‘Habelman2’, ‘Mullica Queen’, ‘Pilgrim’, ‘Searles’ など、貯蔵性の良い‘Centennial’, ‘Early Richard’, ‘Howes’, ‘Rezin McFarlin’, ‘Stevens’ などがあります。

人との関わりの歴史

クランベリーに関する古い記述としては、1550年、探検家James White Norwoodの日記にアメリカンインディアンがクランベリーを利用していると記されているほか、1605年にはJames Rosierがアメリカ北東部の海岸で樺皮の容器にクランベリーを入れたアメリカンインディアンに出会ったことを、1633年にはMary Ringの夫がマサチューセッツでクランベリーで染めた妻のペチコートに16シリングの値がついたことを記しています。北米ではアメリカンインディアンが野生のオオミノツルコケモモの果実を採取し、生食のほかペミカン(pemmican)などの伝統保存食や傷薬、染色などに古くから利用してきました。1816年頃にはヘンリー・ホールがマサチューセッツでクランベリー農園を開園し、1820年代には欧州へ輸出されました。欧州では北欧やロシアを中心に野生のツルコケモモを採取していましたが生産量が低いため、アメリカ産クランベリーがよく売れたようです。船乗りは壊血病予防にクランベリーを持ち込みました。かつては樽(barrel)で運んだため、クランベリーの量を表す単位は今もバレル(barrel)です。北米では感謝祭に、英国ではクリスマスにクランベリーソースを七面鳥とともに食べる伝統があり、米国では全生産量の20%が感謝祭の週に消費されます。酸味が強いため生食用出荷は全生産量の5%しかなく、95%がジュースを主とする加工用です。

種子に角質除去や収斂、抗酸化作用があり、シードオイルにはα-リノレン酸やビタミンEを多く含むため、いずれもスキンケアなどに用いられます。果実にアントシアニンやキナ酸を多く含むため、近年その機能性が注目されています。庭で育ててフレッシュなクランベリーを味わいたいですね。

博士(農学)
木村正典 きむら・まさのり
ジャパンハーブソサエティー専務理事。 ハーブの栽培や精油分泌組織の観察に長く携わるとともに、園芸の役割について研究。著書に『二十四節気の暮らしを味わう日本の伝統野菜』(GB)、『カルペパー ハーブ事典』(監修)(パンローリング)、『ハ ーブの教科書』(草土出版)、『有機栽培もOK! プランター菜園のすべ て』(NHK 出版)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第41号 2017年9月