2012.9.18

NDI Draft Guidanceについて

報告:桂川直樹・監修:末木一夫

2011年7月に米国食品医薬品局(FDA)は、新しい機能性食品原材料<サプリメント用も含む> (NDI:New Dietary Ingredients)(1)NDI(New Dietary Ingredients)「新しい機能性食品原材料」1994年10月15日より前に市場になかった機能性食品原材料。それ以前に出回っていた 原材料は ODI(Old Dietary Ingredients)とされ、食経験がありこれまで健康被害がないことから規制の対象とはならない。新しい加工方法についても規制対象になり、かつ 非該当であることを事業者が確認しないといけないため負担となっている。をどのように規制するかについての法案を発表いたしま した。2011年1月にアメリカ議会が食品安全近代化法(FSMA:Food Safety Modernization Act) を可決し、オバマ大統領の署名により成立したことを受け、これまであいまいとなっていた DSHEAのNDIの考え方を期限としていた半年のうちに公表したことになります。NDIへの規制につ いては、1994年の栄養補助食品健康教育法(DSHEA:Dietary Supplement Health and Education Act)以来、はっきりとしてきていませんでしたが、1994年以前には市場になかった原材料をNDI ととらえ、その商品の安全性を事業者が確認する規制方法を発表したことになります。この発 表は法案の説明(Draft Guidance Document)(2)DraftGuidanceDocument:新しい規制の法案に対しての解説。まだ規制されておらず準 備段階と言える。であり、まだ規制は実施されていません。業 界団体や非営利活動団体などから合計約15万ページにも及ぶコメントが寄せられ、その多くは この新しい規制に反対するものでした。つまり、サプリメント業界とFDA当局との間で利害の対 立が生じているという構図となっています。ABC(American Botanical Council)の季刊誌に発表 された2つの寄稿文を参考にして以下簡単に解説いたします。

サプリメント業界の主張(問題点)

サプリメント業界としては、この新規制により新たな負担が発生するため反発は当然と考えら れます。先ずはその主な主張を確認いたします。

  1. これまでにない費用が発生する(=末端価格の上昇を招く): サプリメント製造業者、業者にとってこの新しい規制の最大の問題点は、NDIのコンプライアンス(法令遵守)のた めに費用がかかるというものです。安全性試験が必要な場合もあり、一アイテムにつき最 大50万ドル程度の費用負担が生じるというものです。最終的に消費者に負担がかかります。
  2. 消費者にはメリットが少ない: 安全性確認のための追加費用負担が発生するものの、それ ほど効果的な施策ではなく、具体的に安全性が確認されることは少ない。これまでFDAがと った市場からの撤去措置としては、エフェドラを禁止したことに限定されています。
  3. ODI(認められた原材料)のリストがない: 1994年以前に市場に出回っていたものはODI(Old Dietary Ingredients)と考えられますが、これについての公的なリストが存在せず、それ を確認することもサプリメント製造業者、販売業者の責務となっています。食品添加物で はGRAS (Generally Recognized as Safe) (3)GRAS(GenerallyRecognizedasSafe):一般に安全と認められる食品添加物。1958年にアメリカで連邦規則集 21 編(FDA21CFR)にて制定されたルール。充分な毒性データが ないものの、長年の食経験や科学的な知見などを総合して評価し、食品添加物としての使用に際立ったリスクがないとみなされた物質がポジティブリスト化されている。日本における既存添加物リストのシステムに類似している。のリストがあり、このリストをODIと考える こともできそうですが、FDAはこれを認めていません。
  4. 新しい加工方法についてもNDI規制の対象: 1994年当時と比べ現在では抽出方法などが近代 化してきていて、例えば二酸化炭素抽出は当時では想定できない技術だったと言えるでし ょう。この安全性の高い抽出方法は1994年以前に主流だったアセトンやヘキサンを使いそ の残留が課題となっている伝統的な溶剤抽出方法と比べて「新しい」という理由でより重 い規制がかけられることになります。製造方法はすでにGMPで規定されているところなので、 これをNDI規制にて二重規制とするのに抵抗感があるようです。
  5. 合成品もすべて規制対象: 現在では希少な天然品ではなく、安価で成分的には天然品と変 わらない合成品が多数開発されています。またプロバイオティクスなど微生物を用いた発 酵品も多く存在しています。これらについてもすべてNDIということになります。
  6. NDIの原材料毎ではなく、NDIが含まれる製品毎にファイリングが必要: 製造業者や販売業 者だけではなく規制当局にとっても過大な負担になるでしょう。

FDA当局の課題認識を推測

FDAが主張すると考えられる課題認識を以下の通り整理しておきましょう。FDAは2011年7月のこ の発表以降、正式なコメントを発表していませんので、あくまでも想定になります。

  1. 一定の安全性担保が必要:サプリメントは効果効能を主張している。そのため、機能性の認識は消費者の選択に委ねるとしても、安全性については当局が管理せねばならない。
  2. 医薬品と比べてまだまだハードルが低い:サプリメントは今回のNDI規制を設けても医薬品 と比べると低レベルの安全性確保であり、商品開発コストは低い。食品として流通させられる。
  3. FDAの事前承認はいらない:NDI新規制は事業者から当局への報告(Notification)を求めていて事前に承認や許可を得るものではない、そのため医薬品と比べると負担は小さい。

このようにサプリメント業界と当局との間に見解の違いができているのは不可避と言えるでしょう。問題となるのは、この新規制を運営する当局側にも相当な負担が発生しています。アメリカでは規制よりも消費者の自己責任による選択によって商品が淘汰されてきた文化・歴史からすると、これまで当局の安全性の管理が杜撰だったとも言えるでしょう。そのため新たに規 制をするとなると管理コストがかかるのは当然のことかも知れません。

NDIがネガティブリストでもポジティブリストでもないため、またその確認手続きが煩雑である ことについては、サプリメント業界側の反発に妥当性があるように感じられます。特許制度上の制約もあるでしょうが、認められた原材料(ODI)をポジティブリスト化する必要があるでしょう。今後も両者の対立を通して、シンプルな規制へと移り変わっていく必要がありそうです。例えばマスターファイル方式を採用するなどの方法が考えられます。この新規制を契機に情報 の蓄積や判例などを通して正しい情報が普及されることになるでしょう。

なお、2012年7月現在の情報では、業界側からの要望に答えてFDAが上記のDraft Guidance改定 に応じることとなったようです。発表時期は未定ですが、大統領選後となると伝えられていて、 さらに1年はかかると思われます。

知っておきたい用語

※1 NDI(New Dietary Ingredients):新しい機能性食品原材料
1994 年 10 月 15 日より前に市場になかった機能性食品原材料。それ以前に出回っていた 原材料は ODI(Old Dietary Ingredients)とされ、食経験がありこれまで健康被害がな いことから規制の対象とはならない。新しい加工方法についても規制対象になり、かつ 非該当であることを事業者が確認しないといけないため負担となっている。
※2 DraftGuidanceDocument:新しい規制の法案に対しての解説。まだ規制されておらず準 備段階と言える。
※3 GRAS(GenerallyRecognizedasSafe):一般に安全と認められる食品添加物。1958年にアメリカで連邦規則集 21 編(FDA21CFR)にて制定されたルール。充分な毒性データが ないものの、長年の食経験や科学的な知見などを総合して評価し、食品添加物としての 使用に際立ったリスクがないとみなされた物質がポジティブリスト化されている。日本 における既存添加物リストのシステムに類似している。

参考文献

1. Tyler Sumith (2012), ABC Herbal Gram #93 “Nonprofits and Industry Groups Comment on FDA’s NDI Draft Guidance Document”
2. R. William Soller (2012) , ABC Herbal Gram #93 “The Regulated Dietary Supplement Industry, Myths of an Unregulated Industry Dispelled”

1 NDI(New Dietary Ingredients)「新しい機能性食品原材料」1994年10月15日より前に市場になかった機能性食品原材料。それ以前に出回っていた 原材料は ODI(Old Dietary Ingredients)とされ、食経験がありこれまで健康被害がないことから規制の対象とはならない。新しい加工方法についても規制対象になり、かつ 非該当であることを事業者が確認しないといけないため負担となっている。
2 DraftGuidanceDocument:新しい規制の法案に対しての解説。まだ規制されておらず準 備段階と言える。
3 GRAS(GenerallyRecognizedasSafe):一般に安全と認められる食品添加物。1958年にアメリカで連邦規則集 21 編(FDA21CFR)にて制定されたルール。充分な毒性データが ないものの、長年の食経験や科学的な知見などを総合して評価し、食品添加物としての使用に際立ったリスクがないとみなされた物質がポジティブリスト化されている。日本における既存添加物リストのシステムに類似している。