2021.3.31.

腸内環境と食物繊維サイリウムハスク

城西大学薬学部 医療栄養学科分子栄養学講座教授

清水純

腸内の善玉菌の割合を増やす方法には、大きく分けて二通りある

はじめに

健康な生活を送るためには、腸内環境が重要であることが最近の研究で多く報告されてきています。例えば腸内環境は、下痢・便秘をはじめとして、免疫力、皮膚バリア機能、神経伝達物質の増加、老化への影響などが明らかにされています。腸内の状態を良好に保つ活動を意味する「腸活」という言葉も、よく耳にするようになりました。腸内環境には、たいへん多くの因子が影響します。ヒトの腸管、主に大腸には約1000種類、100兆個にも及ぶ腸内細菌が生息しています。ヒトの腸内細菌は、善玉の菌と悪玉の菌、そのどちらでもない中間の菌と、大きく分けて3グループで構成されています。これらの菌は互いに密接な関係を持ち、複雑にバランスをとっています。腸内細菌の中で一番数が多い菌は中間の菌で、次に善玉菌が多く、悪玉菌は少数です。腸内細菌の種類は個人によって極めて多様で異なり、さらに食事・住国などの要因によっても異なるとされています。また、菌の数は年齢によって増減はあるものの、菌の「種類」は一生を通じてほとんど変わらないことも報告されています。例えば抗生物質の飲用や食中毒をおこすと、腸内細菌の割合は大きく変動しますが、時間の経過とともに元に戻るとの報告があります。腸内の善玉菌の割合を増やす方法には、大きく分けて二通りあります。

写真1 サイリウム栽培の様子(写真提供:フィブロ製薬株式会社)

まず一つめは、善玉菌を直接摂取する方法です。食品ではヨーグルト、乳酸菌飲料、納豆、漬物など、ビフィズス菌や乳酸菌を含むものです。二つめは、腸内にもともと存在する善玉菌を増やす作用のある食物繊維やオリゴ糖を摂取する方法です。これらの成分は野菜類、果物類、豆類などに多く含まれ、消化・吸収されずに大腸まで達します。大腸内にもともと存在する善玉菌に、好きな炭水化物である「エサ」を優先的に与えて、数を増やそうという考えです。

日本人の平均食物繊維摂取量は、1950年頃には一人あたり一日20gを超えていましたが、穀類、いも類、豆類の摂取量の減少に伴い、低下しているのが現状です。最近の報告によれば平均摂取量は一日あたり14g前後と推定されています。厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、1日あたりの目標量は、18〜64歳で男性21g以上、女性18g以上となっています。食物繊維摂取による効果は、過体重、血中LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)、血中中性脂肪、空腹時血糖値に対して改善が明らかにされています。

今回は食物繊維源の中でも、古くからハーブ植物として利用されてきたオオバコ科の一種、サイリウムの種皮から得られる食物繊維を取り上げたいと思います。

サイリウムハスク

英名はサイリウム(Psyllium)、学名はプランタゴオバタ(Plantago ovata)で、オオバコ科(Plantaginaceae)の1年生植物です。主としてインドやパキスタンで栽培され、高さ30〜40cmに成長し(写真1、2)、収穫後に種子を利用します。種子は薄いピンク色で、長さ2〜4mmで、白い膜状の半透明の種皮(ハスク)で覆われており、この種皮を集めて利用します。この種皮は水を含むと膨らんで粘性がでる性質があり、種子が雨などで濡れると粘性によって人や動物の体に付着して運ばれ、色々な場所に種子を散布できるためと考えられています。サイリウムハスクは、「サイリウム種皮由来の食物繊維」として、特定保健用食品の関与成分として、これまでに多くの製品に利用されてきました。認められている効果としては、「おなかの調子を整える」や、「コレステロールの吸収を抑える」などがあります。また多くの緩下剤(便秘の薬)の成分としても配合されています。このような効果を発揮するのは、サイリウムハスクを水に溶かすと、特有の凝集性を持ったまとまりのある粘性と強い保水力を持つ物性を持つためです。水に1%の濃度で溶かすと高粘性の溶液となり、2%ではゼラチンの様なゼリー状のゲルをつくります。成分としては、非常に膨潤性の強い、アラビノキシラン類からなる多糖類と考えられています。高粘性の水溶液は、チキソトロピーの性質を持ちます。溶液をかき混ぜたり、振り混ぜたり力を加えると粘度が低下しますが、一定時間放置すると再び粘度が上昇する性質で、トマトケチャップなどが典型的な例です。この粘性を利用して、食品添加物の既存添加物 No.143「サイリウムシードガム」として、増粘安定剤としての利用が認められています。

真2 サイリウムの実(写真提供:フィブロ製薬株式会社)

腸内環境への影響

これまでの腸内細菌の研究は、様々な寒天培地の上で培養できる(増殖する)細菌を中心に検討されてきました。しかし、この方法では培養できない細菌が多数存在しているため、未知の細菌の存在や性質が分からないという点がありました。近年、次世代シークエンサーという機器の登場により、細菌のDNAをまるごと取り出し、遺伝子配列の解析により、どのような腸内細菌がどのくらい存在するか明らかとなってきました。例えばこの手法により、欧米人と比べ日本人の腸内細菌では、海藻を分解できる酵素と同じ遺伝子配列をもつ人の割合が多いことが判明しています。

サイリウム種子を投与すると、結腸がん摘出患者で、1週間後には酪酸の糞便中濃度が約40%増加したとの報告があります1)。さらに健康なボランティアと便秘患者を対象に、7日間のオオバコとプラセボ(マルトデキストリン)を比較したランダム化プラセボ対照二重盲検試験の報告があります。健常人よりも少なかった様々な腸内細菌がサイリウムハスクの摂取により、大幅に増加することが判明しました2)。DNA解析により判明したその腸内細菌は、植物由来の多糖類を短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸)に発酵させる嫌気性細菌であるラクノスピラ(Lachnospira)、ロゼブリア(Roseburia)、フェーカリバクテリウム(Faecalibacterium)でした。酪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となり、大腸のバリア機能を高めるとされています。一方で、がん細胞に対しては、細胞の自然死であるアポトーシスを促すことが判明しています。また近年の報告では、酪酸は、過剰な免疫応答を抑制するブレーキ(負の制御機構)役である制御性 T細胞の割合を増加することも報告されており、免疫の恒常性を維持する役割も期待されています。さらにクローン病や潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の患者の腸内でも、酪酸を作る腸内細菌が少ないことが知られています。腸の健康に有用な酸を生成する素材として、サイリウムハスクは期待ができそうです。

最近の話題

サイリウムハスクは、「脂肪、糖、塩分の便への排出を増やす」の3つの機能があるとして、機能性表示食品として販売されています。お腹の調子とコレステロールの吸収を抑える機能はもちろんのこと、便中への中性脂肪排泄を増やすとともに、ナトリウムの排泄を促進して血圧を低下させる機能が報告されています3)。試験管内の試験でも、サイリウムハスクは消化管内でさまざまに変化する広いpH領域において、また広いナトリウム濃度範囲にわたってナトリウムを結合することが報告されています4)。このような「トリプル機能」を持った機能性食品素材には難消化性デキストリンがありますが、そのほかには見当たりません。今後、ますます食品への応用ができる素材と考えられます。

おわりに

サイリウムハスクの機能性について概説しました。オオバコ科の植物の一種である車前草は、古代中国の漢方薬に関する本、『神農本草経』にも収載されています。このように古来より食経験のある植物に、新たに様々な食品機能が明らかとなってきたことは我々の健康に大いに役立ちそうです。今後はサイリウムハスクを利用した食品を多く目にする機会が増えると思います。

[謝辞]

サイリウムの写真、及び情報をご提供頂いたフィブロ製薬株式会社様に、厚く御礼申し上げます。

  • 1) Nordgaard I, Hove H, Clausen MR, Mortensen PB. Colonic production of butyrate in patients with previous colonic cancer during long-term treatment with dietary fibre (Plantago ovata seeds). Scand J Gastroenterol. 1996; 31(10):1011-20.
  • 2) Jalanka J, Major G, Murray K, Singh G, Nowak A, Kurtz C, Silos-Santiago I, Johnston JM, Vos M. The Effect of Psyllium Husk on Intestinal Microbiota in Constipated Patients and Healthy Controls. Int J Mol Sci. 2019; 20(2):433.
  • 3)Yoshinuma H, Inoike N, Tanabe S, Tanaka M, Takara T, Nakamura F. Enhancement of sodium excretion by intake of psyllium husk―A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Crossover Trial― Jpn Pharmacol Ther. 2019; 47(9): 1509-1518.
  • 4)Jimoh MA, MacNaughtan W, Williams HE, Greetham D, Linforth RL, Fisk ID. Sodium ion interaction with psyllium husk ( Plantago sp.). Food Funct. 2016, 14;7(9):4041-4047.
城西大学薬学部 医療栄養学科分子栄養学講座教授
清水純 しみずじゅん
東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学専攻修了。博士(農芸化学)、管理栄養士。日清オイリオ株式会社、東京農業大学農学部栄養学科助手、城西大学薬学部医療栄養学科助手、助教、准教授を経て、2019年度より現職。著書に『食物繊維 基礎と応用』(第一出版)、『Nutrigenomics and Proteomics in Health and Disease』(Wiley-Blackwell)など。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第55号 2021年3月