2021.3.16.

メディカルハーブによる食物アレルギー体質の改善効果

富山大学未病研究センター学長補佐

門脇真

近年、先進国を中心に食物アレルギー(FA)疾患が増加しているが、根本的治療法は未だ開発されていない。健康なヒトの腸管粘膜免疫系では、「異種抗原である食物抗原に対する免疫寛容機能」を担うFoxp3陽性制御性T細胞(Treg)が十分に分化誘導されているが、FA患者ではTregの分化誘導が不十分であり、食物抗原感作リンパ球に対して相対的に不足している免疫学的アンバランスな状態にあると考えられている。

最近、いくつかの薬用植物や食品由来成分が腸管にTregを誘導することが報告されているが、その詳細な検討はなされていない。筆者らは、FAモデルに対して漢方薬・葛根湯がTregを腸管に誘導して、FAの発症を抑制する事を報告した(Yamamoto T., Kadowaki M. et al., Int Arch Allergy Immunol. 2009)。さらに、FAモデルマウスを用いて独自に確立した経口免疫療法(OIT)モデルにおいて、葛根湯が腸管にTregを効率的に誘導しOITによる経口免疫寛容を亢進してFAの発症を抑制することを明らかにした(Nagata Y., Yamamoto T., KadowakiM.etal.,PLoSOne.2017)。この研究を基に、現在、富山大学附属病院にて葛根湯を応用した食物アレルギー児に対する臨床研究を開始している。

筆者らは、FAモデルに対して葛根湯と同様に葛根の主成分でありイソフラボン類のプエラリンがFAの発症を抑制すること、葛根湯によるTreg誘導にもプエラリンが関与することを明らかにした。その作用機序として、食品由来成分でもあるプエラリンがTreg誘導を促進するレチノイン酸(RA)の産生代謝を腸管特異的に制御して、腸管でのレチノイン酸の機能を亢進させる事を示 した(Yamamoto T., Kadowaki M. et al., Biochem Biophys Res Commun. 2019)。

これらの研究を基に、薬用植物や食品由来成分よりもさらに日常的に摂取することが可能なメディカルハーブにより、食物アレルギー体質の改善が期待できるとの仮説を立て、レチノイン酸産生代謝制御作用をもつメディカルハーブを探索するため、メディカルハーブ・エキスを検討した。

FAモデルでは、プエラリンの経口投与により腸管上皮細胞でのレチノイン酸合成酵素ALHD1A1の遺伝子発現が上昇した。また、腸管粘膜固有層単核細胞にプエラリンを添加して培養すると、プエラリン濃度依存的にレチノイン酸分解酵素CYP26B1の遺伝子発現が低下した(Yamamoto T., Kadowaki M. et al., Biochem Biophys Res Commun. 2019)。そこで、本研究ではフラボノイド類のアピゲニン、ルテオリン、クエルセチンの水抽出エキスについて、腸管上皮細胞株Caco-2や初代培養の腸管粘膜固有層単核細胞を用いてALDH1A1やCYP26B1の遺伝子発現の変化をリアルタイムPCR法を用いて検討した。腸管粘膜固有層単核細胞は、摘出したマウスの大腸からEDTAを用いて粘膜上皮細胞層を除去した後、collagenaseによって酵素処理を行い、さらにPercollを用いた密度勾配法により精製した。

アピゲニンは多くの植物に含まれるフラボンであり、天然に生成する多くの配糖体のアグリコンである。ルテオリンはセロリ、パセリ、タイム、シソ、カモミール、ニンジン、オリーブオイル、ペパーミント、ローズマリー、ネーブルオレンジ、オレガノ等の食用植物にも含まれ、クエルセチンは、ケッパー、リンゴ、ラズベリー、コケモモ、クランベリー、オプンティア、ネトル、フェンネル、マテなどに含まれている。

実験の結果、腸管上皮細胞株Caco-2で、アピゲニン、ルテオリン、クエルセチンはALDH1A1の遺伝子発現に影響を与えなかった。しかし、腸管粘膜固有層単核細胞でのCYP26B1の遺伝子発現をアピゲニン、ルテオリン、クエルセチンは何れも抑制した。

図1 腸管粘膜細胞でのCYP26B1の発現に対する作用

ビタミンAの主要な代謝産物であり、活性の大半を担うレチノイン酸は未成熟T細胞(naïveT)からTregへの分化を促進することが多くの報告から明らかになっている。さらに、ビタミンAの経口投与やレチノイン酸の皮下投与により脾臓、腸間膜リンパ節、パイエル板、および小腸および大腸粘膜固有層にTregが誘導されることが報告されている。生体内でのレチノイン酸量は代謝酵素である合成酵素(ALDH1A1とALDH1A2)と分解酵素(CYP26family)によって調節され、特に腸管では、摂取物や血中のレチノールから腸管粘膜上皮細胞中に発現するALDH1A1とCD103陽性樹状細胞(DC)に発現するALDH1A2によってレチノイン酸が合成され、T細胞等に発現するCYP26familyによって分解されている。レチノイン酸の分解酵素であるCYP26B1は、その阻害により生体内でのレチノイン酸濃度が上昇することが認められており、CYP26B1阻害剤であるリアロゾールは炎症性皮膚疾患に対する有効性が示されている。筆者らはOITモデルで、OITと葛根湯の併用治療によるTregの誘導亢進作用には、近位結腸でのCYP26B1発現の有意な抑制によるレチノイン酸量の増加が大きく関与している事を明らかにしている(Nagata Y., Yamamoto T., Kadowaki M. et al., PLoS One. 2017)。

図2 メディカルハーブによる食物アレルギー体質の改善効果

腸管のTregは、腸管粘膜免疫系において食物抗原に対する免疫寛容を誘導しFAの発症を防ぐ働きを担うと考えられているため、Tregの分化誘導作用を持つ薬用植物や食品は食物抗原への耐性獲得を促進することが期待される。本研究成果から、腸管レチノイン酸濃度上昇作用を有するメディカルハーブが明らかになったことにより、FA疾患に対する根本的治療薬が無い現状では、FA患者にとってFAの発症予防やOITによるFA治療時の食生活への臨床応用の可能性が示され、薬剤ではなく日常的に摂取できるメディカルハーブによるFA体質の改善の可能性が示唆された。FA疾患が急増している先進国を中心に、この結果の社会的意義は高いと考えられる。

富山大学未病研究センター学長補佐
門脇真 かどわきまこと
1987年静岡県立静岡薬科大学大学院薬学研究科博士課程修了(薬学博士)。藤沢薬品工業(薬理研究所)、米国コロンビア大学医学部客員博士研究員、奈良県立医科大学医学部講師、富山大学和漢医薬学総合研究所所長などを経て、2020年より現職。専門は消化管生理学、消化管薬理学、粘膜免疫学、自律神経科学、和漢医薬学、未病学。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第54号 2020年12月