2021.1.18.

生活習慣病と桑: 生活習慣の改善が必須で「自分の命は自分で守る」

アロマヘルステック研究所所長 工学博士

野田信三

はじめに

健康日本21(第二次)の「国民の健康増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」が平成24年に改正され、その中間報告を平成30年9月に厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会がまとめた。生活習慣病である糖尿病の指標状況は表1のとおりである。

糖尿病腎症による年間新規透析導入患者数は、2011年(平成23年)の16,803人をピークにやや減少し横ばい傾向が認められる。2016年(平成28年)は透析導入全体の43.2%を占めており、透析全体に占める割合も横ばいである。国民健康・栄養調査における「糖尿病を指摘されたことのある者における治療状況」を見ると、目標値に向けて改善したとはいえない。第2回NDB(National Database)オープンデータ(平成26年度実施分)によると、特定健診にてHbA1c検査実施者のうち、8.4%以上であったのは0.96%(男性1.34%、女性0.52%)であり、前年度より更に低下し目標値の1.0%以下となった。糖尿病有病者数の目標設定時の2016年(平成28年)の予測値は1,200万人であるため、直近の値は200万人ほど低く抑えることができているが、2022年度の目標値に到達してしまっており、今後のさらなる高齢化の進展を上回る糖尿病有病率の低下が必要で、糖尿病の一次予防、二次予防、三次予防の各段階において、切れ目や漏れのない対策が重要であると指摘している。

エネルギー・食塩・脂肪の過剰などの不適切な食生活、運動不足、ストレス過剰、飲酒、喫煙などの不健康な生活習慣は、肥満、高血糖、高血圧、高脂血等を経て、メタボリックシンドロームとしての肥満症、糖尿病、高血圧症、高脂血症などの生活習慣病を発症し、虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)、脳卒中(脳出血・脳梗塞等)、糖尿病の合併症(失明・人工透析・壊疽等)そして半身麻痺、日常生活における支障、認知症などの生活機能を低下させて要介護状態に至ることで健康寿命を損なう。本稿では、健康寿命の視点から概観する。

健康寿命

ヒトは誰しもが、生まれて年をとり(加齢)、老人となり衰え(老化)て死ぬ。この期間を一般的には「寿命」というが、生物学的には、理想的な環境条件のもとで実現する寿命を「生理的寿命(最大寿命)」と、生物が実際に生活している場で見られる寿命を「生態的寿命」がある。

ヒトの生態的寿命に関して高齢化を表す言葉は、世界保健機構(WHO:World Health Organization)が表2に示すように定義している。

平成30年版高齢化白書(内閣府)によれば、日本の総人口は平成29(2017)年10月1日現在、1億2,670万人、65歳以上人口は3,515万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は27.7%となり超高齢化社会に突入した。

図1健康寿命と平均寿命


(図1に利用した資料)
平均寿命:
平成13・16・19・25・28年は、厚生労働省「簡易生命表」、
平成22年は「完全生命表」
健康寿命:
平成13・16・19・22年は、厚生労働科学研究費補助金
「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」、
平成25・28年は「第11回健康日本21(第二次)推進専門委員会資料」

厚生労働省が公表する2017年(平成29年)簡易生命表によれば、平均寿命は男性が81.09年、女性が87.26年で平成28年よりさらに伸びている。平成30年9月1日現在の日本における住民基本台帳に基づく百歳以上の高齢者の総数は69,785人(女性61,454人:全体の約88%)であり、その中で百歳高齢者表彰対象者は32,241人で、医療の進歩を考えれば今後さらに寿命が延びると考えられる。

人の長寿記録は記録など根拠のあるものではジャンヌ・カルマン122.5歳が知られている。ヒトの体細胞の寿命は生殖細胞とがん細胞を除き有限で、分裂可能回数は限界がある。1961年にヘイフリック博士は「細胞には寿命がある」説を発表した。「生殖細胞とがん細胞を除き体細胞は有限寿命でこれが老化と死の背景となる」という説である。ここでのキーワードがテロメア・ミトコンドリア・活性酸素(寿命・老化)、テロメアの短縮抑制・活性酸素抑制(長寿)等であろう。

フレンチパラドックスと健康寿命

家族に迷惑をかけずに健康で寿命を全うしたいと誰しもが思う。1980年代に世界保健機構によって組織されたMONICAプロジェクト(世界的規模の冠動脈疾患のモニターシステム)からの報告がフレンチパラドックスの発端であった。各国における飽和脂肪酸摂取量や冠動脈性心疾患の危険因子を比較したところフランスにおける飽和脂肪酸摂取量はアメリカやイギリスとほとんど変わらなかったにも関わらず、冠動脈性心1)疾患による死亡率が低かったことである(表3)。

ほとんどの国々で、冠動脈性心疾患による死亡率の大小は、それまで知られていた食生活を含めた生活習慣の良し悪しや危険因子の大小などで説明できるが、低い死亡率のフランスだけは、どうしても説明がつかなかった。フランス国内の食生活を解析した結果、地中海式の食生活と大量のワイン消費に注目し、同じフランス国内でも場所によって差異があった。例えば地中海に近いToulouseでの冠動脈疾患による死亡率は人口10万人当たり78人であるのに対し、内陸部でドイツ国境に近い Strasbourgでは102人、ベルギー国境、北海に近い Lilleでは105人と他の地域に比較して Toulouse の死亡率が特に低いことであった2)。これらの地域の食生活の違いは、Toulouse の食事が同じフランスの他の地域に比較してワインの消費が多く見られたことである3)
(表4)。

ワインは豊富なビタミン、ミネラル、ポリフェノールを含む 。ワインから抽出したポリフェノールの活性試験で血管保護性分子として重要な内皮性一酸化窒素(NO)を合成する酵素(eNOS)の発現を増加させたという Leikert ら4 )の報告があるが、ポリフェノールは抗酸化、血圧降下、殺菌、抗がん作用を有していることが知られている。ワインに含まれるポリフェノールがフレンチパラドックスの主な要因なのではないのかという説が起こったと思われる。

赤ワインに含まれるポリフェノールにはアントシアニン、フラボノールやスチルベン誘導体などがある。スチルベン誘導体のレスベラトロールは赤ワイン中において主要な抗酸化物質である。レスベラトロール類似物質にオキシレスベラトロールがある。レスベラトロールとオキシレスベラトールの構造上の違いは、スチルベン円格のA環の2位のヒドロキシル基の有無だけである。

全国に生育する落葉喬木で耐久力の大きい点と美麗な黄色の木肌を有するため床柱、家具材として珍重されるヤマグワは、オキシレスベラトロールを相当量含有する。この物質は、無色針晶で融点201〜202.5°(分解)、メタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、エーテルに易溶、クロロホルム、ベンゼンに不溶、稀アルカリ、アンモニア水には鮮黄色に溶解するが酸性にすると無色に戻る。稀薄な溶液では紫外線下に紫色を呈するが、濃厚溶液では青色を示す。塩化第二鉄液で呈色しない。濃硫酸には帯黄赤色を呈して溶解し、水を加えると無色となり再び濃硫酸を加えると復色する特徴をもっている5)

ヤマグワの樹皮(bark)、辺材(sapwood)および心材(heartwood)中のオキシレスベラトロール含有量は、表5に示すように、そのほとんどが心材中に含まれ、その含有量は木粉質量当たり約7.5%で、メタノール抽出物中の約70%を占める6)

Shinらは Morus albaから単離したオキシレスベラトロールのチロシナーゼによるドーパ酸化活性に及ぼす阻害効果を検討した7)結果、オキシレスベラトロールの酵素阻害活性はレスベラトロールの150倍も高いことを報告している。

また、DPPHラジカルの50%を消去するポリフェノール濃度(RC50)を抗酸化活性の指標とした結果は、表6に示すように、7種類のポリフェノールのうち、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノンの抗酸化活性は比較的高く、フロログルシンとレゾルシンの活性は低く、オキシレスベラトロールの抗酸化活性は0.146μmol/mLとレスベラトロール0.157μmol/mLと同等であるという報告8)がある。

健康寿命の延伸

土壌自活性線虫Caenorhabditis elegans (C.elegans)は、発生や行動の分子機構を研究するためのモデル生物として、全細胞系譜と全神経回路構造が解明されている。逆遺伝学の手法も開発され、ショウジョウバエと並ぶ発生遺伝学・行動遺伝学の代表的なモデル生物として知られ、また、全ゲノムの塩基配列が決定されており、遺伝子破壊やGFP融合遺伝子による発現解析などの手法を組み合わせて、ヒトの遺伝病原因遺伝子や癌遺伝子などの個体レベルでの機能や作用機構を調べるための「生きた試験管」として注目されている9)

C.elegansに桑葉エタノール抽出物を投与し、C.elegansの平均寿命を測定した結果、ポジティブコントロールのエソスクシミド(抗てんかん薬)の35%にはおよばないが、抽出物(2.0mg/mL)投与群の平均寿命が17%延長するという結果が得られた10)。(図3、表7)

レスベラトロールによる健康寿命に関しては、酵母のSir2活性を増大し寿命を延ばす報告11)C.elegans、ショウジョバエやマウス実験では否定する報告12,13)など相反するデータが発表されているが、オキシレスベラトロールについての詳細な検討は十分ではない。オキシレスベラトロールが多くの木材腐朽菌の成長を阻害する5)ことが知られていることは、健康寿命への何らかの関与が存在すると思われる。

おわりに

日本の代表的な童謡「赤とんぼ」(作詞:三木露風、作曲:山田耕筰)に「山の畑の、桑の実を、小かごに、つんだは、まぼろしか」と唄われている。描写される美しい風景は、数十年前には日本のいたるところで出会えた。桑の実のあるところ、すなわち「桑園」は、いわゆる里山や里地の景観を醸し出す重要な要素であり、長い間、農村の収入源として受け継がれてきた養蚕に必須な桑を育てる
場所であった。飼育する蚕の食性は非常に狭く、桑のみを食する単食性昆虫である。桑は食用作物や園芸作物ではなく工芸作物に分類される植物である。桑葉には乾燥重量で30%ものタンパク質を含み、その必須アミノ酸バランスは非常によく、アミノ酸スコアは肉類・魚介類の100と同等の数値である。このように栄養価の高い桑葉は養蚕の他に養畜(羊・山羊・ウサギ・豚・鶏・牛・馬・蚕など)の餌に利用されている。蚕は殺虫剤への感受性が非常に高く、桑園での殺虫剤使用ができず、他の農薬もあまり使われないこと、桑は成長が非常に速い植物で適切な選定・施肥等の管理を行うことで1年に2回の収穫ができ、栽培地にもよるが、10アール当たり1.5〜3トンの全葉(桑枝条から摘み取った葉)を収穫できることから、里山や里地といった日本特有の自然環境を形成・維持し、自然の多様な生物がかかわる循環機能を利用する農業を構築することが可能となる。飼育動物にはほぼ決まった健康寿命があり、ネズミはおよそ3年、ヒツジはおよそ20年、ゾウはおよそ70年といわれる。健康寿命は体の大きさとの相関があり、一般に体の大きな動物ほど長生きする傾向がある。しかし、この傾向から逸脱する動物がいる。例えば、ハダカデバネズミは平均的な健康寿命はヒツジよりも長く28年、コウモリの仲間は30年ほどで天敵に襲われたり伝染病や事故で死ぬことなく健康で生きるものもいる14)。日本人の健康寿命が男性72歳・女性75歳(2016年)であるように、ヒトもゾウの70年を超える長生き動物である。これらの動物の長生きの謎を解くカギとして注目されているのが血液中に含まれるミネラル成分のリンである。横軸を血液中のリン濃度、縦軸を寿命でこれらの動物のグラフを描くと相関関係が得られ、血液中のリン濃度が少ない動物ほど健康寿命が長いことが明らかにされた。リンは生命維持に欠かせないミネラルではあるが、血液中のリンが過剰になると、詳細なメカニズムは明らかになっていないが、老化を加速してしまうことが分かってきた14)

「2025年問題」が話題となっている。団塊の世代が全員75歳を超え、超高齢社会が日本に到来する年である。誰でも病気になるリスクがある。健康寿命を延ばすためには生活習慣の改善が必須で「自分の命は自分で守る」意識の啓発が必要である。そのための一助に健康効果や経済効果を秘めている桑が有効に活用されることを期待している。

参考文献

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  2. Perdue, W. Lewis, et al. the French Paradoxand Beyond. Sonoma, CA, Renaissance, 1993.
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  4. Jürgen F. Leikert, Thomas R. Räthel, Paulus Wohlfart, Véronique Cheynier, Angelika M. Vollmar, Verena M. Dirsch : Circulation, 106, 1614-1617, 2002.
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  11. Howitz, K. et al.: Nature 425, 191-196(2003)
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  14. NHKスペシャル「人体~神秘の巨大ネットワーク~」1、東京書籍(2018)
アロマヘルステック研究所所長 工学博士
野田信三 のだしんぞう
1950年東京生。日本メディカルハーブ協会学術委員、東洋大学地域環境科学部非常勤講師、東洋大学理工学部非常勤講師。専門領域はサプリメント機能学・かおり学。特許第4255352号(グリセミックインデックス低下食品)、特許第4575588号(悪酔い・二日酔い予防剤)の発明者。著書『やさしくわかる「かおり」のしくみ』(食品研究社)を上梓し、健康に寄与するおいしさ(かおりと味)に関する研究を続けている。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月