2021.1.7.

現代人の目の健康問題とビルベリーの機能性

宮崎大学キャリアマネジメント推進機構農学系食品科学研究領域テニュアトラック助教

小川健二郎

1.はじめに

人は外部情報の約8割を視覚から得ています。目は体の外に突出した器官で、日常的に太陽光や紫外線、空気中の酸素や菌に曝されています。また、現代人はパソコンやスマートフォンなど多くのVDT(Visual Display Terminal)端末に触れる機会も増え、職場のみならず私生活において、子供から大人まで目を酷使しています。さらには機器類のタッチパネル端末化や、VR(Virtual Reality:仮想現実)あるいはAR(Augmented Reality:拡張現実)などの装着型端末(ウェアラブルデバイス)の開発も進んでおり、今後ますます目の負担は増え続けていきます。VDT作業を行う労働者の実に90.8%が身体的な症状として「目の疲れ・痛み」を感じているとの調査結果があります(厚生労働省「平成20年技術革新と労働に関する実態調査」より)。VDT作業は、加えて老眼や近視など、ピント調整機能の異常や、目の乾き(ドライアイ症状)の原因にもなります。

ドライアイは、2003年の調査で本邦の患者数は約2,200万人と推定され、高齢層で涙液分泌が低下することに加え、コンタクトレンズを着用する若年層でも多い症状です。目の不快感(乾燥感、異物感、眼痛)や視機能異常(眼疲労、霧視、眼重感)、あるいは角膜損傷から細菌の感染による炎症疾患に発展する場合があり、軽視できません。オフィスワーカーを対象とした2013年の疫学調査(Osaka study)では、男性60.1%、女性76.5%がドライアイであったと報告されています1)。また、近視は2050年に世界人口の半分が近視になるともいわれ、特に東アジアで近視の患者数増加が問題視されています2)。東京都内の小中学生を対象とした調査でも、小学生で76.5%、中学生で94.9%が近視であることが分かっています3)。近視は単なる視力低下ととらえがちですが、将来、緑内障や網膜剥離といった失明疾患に発展するリスクが高まるなど、進行を防ぐべき症状の1つです。

このように、目のトラブルを抱える現代人が増える中、アイケアサプリメントとして、ブルーベリー商品は古くから利用されてきました。『H・Bフーズマーケティング便覧2020』(富士経済)4)の情報によれば、ブルーベリー商品の2019年度販売高は2億3,460万円が見込まれており、その需要はほぼ減ることがありません。ブルーベリー商品の原材料は、実はその多くが「ビルベリー」と呼ばれる北欧産野生種のブルーベリーに似た果実を使用しています。目の健康に関する根拠 も、ビルベリー果実抽出物を中心に研究されています。本稿では、ビルベリーの最新エビデンスを基に、現代人の目のトラブルに対し、ビルベリーがどのように目の健康に役立つかをご紹介します。

2. ビルベリーのアントシアニン

ビルベリー(英名:Bilberry、学名:Vaccinium myrtillus)( 図1参照)はブルーベリー(英名:Blueberry、学名:Vaccinium spp.)と同じくツツジ科スノキ属の植物であり、近縁種にあたります。特徴として、紫色色素成分アントシアニンを果皮および果実内部にまで含み、一般のブルーベリーより多くのアントシアニンを含みます。アントシアニンはポリフェノールの一種であり、高い抗酸化作用をもつことから、様々な健康作用を持っています。例として、血糖上昇抑制作用(α−グルコシダーゼ阻害作用)5)、動脈硬化予防作用6)、抗腫瘍作用7)が報告されています。また、ビルベリー果実抽出物では、血小板凝集抑制作用(血流改善作用)8)、毛細血管保護作用9)、抗潰瘍作用10)、アルツハイマー病の発症遅延11)が報告されていますが、日本では主に眼疾患予防や視機能改善作用のイメージが強く、目の健康食品素材として扱われます。

図1ビルベリー果実(フィンランドロヴァニエミの森にて撮影)

ビルベリー果実には15種類ものアントシアニンが含まれており、とくにデルフィニジン系(Delphinidin)やシアニジン系(Cyanidin)など比較的抗酸化力の高いアントシアニンが多く含まれるため、様々な機能を有すると考えられています(図2)。ブルーベリーも同様に15種類のアントシアニンを含みますが、含有量がビルベリーに比べ少ないことから、日本国内で「ブルーベリー」の名称で売られるサプリメントにはビルベリー果実抽出物が主原料として使用されます。

図2 ビルベリー果実抽出物に含まれるアントシアニン(高速液体クロマトグラフ法による測定結果)

3. ビルベリーと目の健康〜眼疾患予防に対する基礎研究

ビルベリー果実抽出物と目の健康作用については、従来眼疾患予防効果について研究がなされてきました。目の中でも後眼部に位置する網膜(図3)は光を感じる部分で、視機能に大きく影響します。日本人の主な失明原因(図4)の割合上位である緑内障(21.0%)、糖尿病網膜症(15.6%)、網膜色素変性(12.0%)、黄斑変性(9.5%)12)は共通して網膜そして中心の黄斑部で起こる疾患であり、ビルベリー果実抽出物を用いた研究がなされてきました。

緑内障に対しては、興奮性アミノ酸NMDA誘発 網膜障害モデル動物や視神経損傷モデル動物を用いて、ビルベリー果実抽出物を投与した結果、網膜神経節細胞を保護する作用が認められました13,14)。また、糖尿病網膜症に対しては、病態として網膜に発生する血管新生(脆弱で細い血管が増え、破れ出血すると失明に繋がる)が問題になりますが、ビルベリー果実抽出物は網膜の血管新生や血管透過性の亢進を抑え、網膜組織の損傷を防ぐ作用が報告されています15,16)。加えて、ブルーライトや強い光を継続的に目に浴びると、網膜で活性酸素が発生し、老化や加齢黄斑変性の発症や進行に関わることが知られていますが、ビルベリー果実抽出物は、光刺激誘発網膜障害モデル動物の網膜細胞損傷ならびに視機能低下を抑制すること17)、また、ブルーライトで起こる網膜光受容体細胞の小胞体ストレスを抑制し、網膜細胞保護に寄与することが報告されています18)

図3 眼球の構造図
図4 日本人の失明原因疾患の割合(参考文献12)

4. ビルベリーサプリメントの機能性 ~ヒト臨床試験の結果より

ビルベリー果実抽出物を我々人間が実際に摂 取した場合について、眼疾患に対する予防効果も一部検討されてきました。例として、糖尿病網膜症における網膜出血の減少19)、緑内障予防作用(松樹皮エキスまたは薬剤との併用による)20)、白内障予防作用(ビタミンEとの併用による)21)などが過去に報告されています。
一方で、2015年4月より始まった食品の機能性表示制度に伴い、健常者の視機能維持を目的としたヒト臨床試験が多く報告されています。ビルベリー果実抽出物を配合した目の機能性表示食品も販売され、2020年1月時点で64件が消費者庁に届出されています。これまで「ブルーベリーは目に良い」という曖昧なイメージでしたが、臨床試験結果により、どのような目の不調に対し、どれだけ摂取すれば目に良い働きが表れるのかが明らかになってきました。

(1)目の疲労感の軽減:臨床試験で最も多い報告が、目の疲労感の緩和作用です。日常的にパソコンなどのVDT作業に従事する日本人成人男女が、ビルベリー果実抽出物のサプリメント(ビルベリーサプリメント)を1日1回、4〜12週間継続して摂取し続けることで、目のピント調節に関わる毛様体筋の緊張が和らぎ、近点視力が改善され、目の疲労感に加えて精神的な疲労感やイライラ、肩や背中の痛みが軽減されたと報告されています22−27)。そのため、仕事や趣味でパソコンやスマートフォンの使用頻度が高く、日常的に目が疲れやすい、またかすみ目や手元の見えにくさを感じる方にお勧めです。

(2)目の乾きや涙液分泌の改善:VDT作業に従事する日本人男女が、ビルベリーサプリメントを1日1回、4〜12週間継続して摂取した結果、涙液分泌量が増加し、涙液層の破壊時間(BUT:Tearfilm break-up time)が長くなるなど涙液の質
が改善されたとの報告があります27,28)。従って、VDT作業中や冬場室内のエアコンで乾燥した状態、またコンタクトレンズ着用などによる目の乾きやしょぼつき、不快感でお困りの方にお勧めです。

(3)子供の近視進行抑制:近視はピント調節機能を担う毛様体筋の異常が原因と考えられてきましたが、近年では眼球の過成長に伴う眼軸長の伸長(目が前後に長くなる)が原因の1つであると知られています。特に児童においては、屋外活動時間の減少や、照度の低い暗い室内で過ごすことが近視の要因とされています。そのような中、2年間に渡りビルベリー果実抽出物の近視進行抑制作用を
調べた報告があります。6〜13.5歳(平均9.34歳)の児童男女64名に、ビルベリー果実抽出物とビタミンEを配合したタブレットを毎月20日間、1年間 摂取してもらい、その後摂取を止めてからさらに1年間経過を観察しました。その結果、ビルベリー配合タブレットを1年間摂取した児童らは、その間の屈折率の変化および眼軸長の伸長が抑えられただけでなく、飲用を止めた1年後まで近視が進行しませんでした29)。携帯ゲームやスマートフォンが普及する現代社会において、児童の視力低下は将来的な目の健康問題の増加が懸念されますが、ビルベリーサプリメントの継続的な摂取が児童の目の健康維持に役立つ可能性があります。

5. 終わりに ~ビルベリーサプリメントの今後

目は唯一“老”眼という言葉で表される器官で す。老化に伴う視機能の低下は誰しも避けて通れません。パソコンやスマートフォンによる目の健康問題が増え続ける将来、ビルベリーサプリメントは1つの予防方法として利用できるものと思われます。しかし、決して万能な薬ではありません。何が目に悪い影響を与えるのか、目のトラブルを防ぐ良い習慣とは何か、など正しい知識を我々一人ひとりが持つべきです。本稿を読んでくださった皆様が、 ビルベリーに対し少しでも知識を深め、今後のご自身の目の健康維持に役立てていただければ幸いです。

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宮崎大学キャリアマネジメント推進機構農学系食品科学研究領域テニュアトラック助教
小川健二郎 おがわけんじろう
博士(薬学)。(株)わかさ生活研究開発部、岐阜薬科大学薬効解析学研究室(出向)、同社マーケティング本部商品課研究所チームを経て、 2018年より現職 。研究課題は、宮崎県産地域食材に潜在する機能性の網羅的解析-視機能改善を目指した分子生物学的研究。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第51号 2020年3月