2020.10.11.

紫外線照射によるバリア破壊に対するビート抽出物の改善効果

城西大学薬学部 皮膚生理学研究室 教授

徳留嘉寛

はじめに

皮膚の最外層に存在する角層は外界からの異物侵入を防ぎ、体内からの水分蒸散を防ぐバリアとして存在する。そのバリアの本質はセラミドが担っていると言っても過言ではない1)。実際にアトピー性皮膚炎患者や老人性乾皮症などの患者皮膚中のセラミ ドは減少している2, 3)。したがって、減少しているセラミドを補充することは重要であ ることは容易に想定できる。

ビートは砂糖の原料植物としても知られ る作物で、北海道で多く栽培される。ビートにはセラミドの前駆物質であるグルコシル セラミド(Glucosyl Ceramide、GlcCer) が含まれる。この GlcCer は多くの作物に含 まれ、トウモロコシ4)、コメ4)、コンニャク5) などの経口投与がヒトや動物の皮膚バリア 機能を改善することが報告されている。

本稿では、ビート抽出物とビート由来セラミド(ビート GlcCer)の皮膚バリア機能に対する改善効果を紫外線照射動物を使用して検討した。

試験方法

ヘアレスマウスに紫外線B波(UVB、200 mJ/cm2)を照射した。試験物質(ビート抽出 物またはビート GlcCer)は試験期間中毎日飲ませた。皮膚炎症を確認するために凍結切片を作成し、観察した。さらに角層中のセラミドを定量した。皮膚バリア機能の指標として、経表皮水分損失量(Transdermal water loss、TEWL)、角層中水分量(Water contents of the stratum corneum)を用いた。

結果・考察

UVB 照射による皮膚炎症の観察

UVB照射3日後に皮膚を摘出し、凍結切片を作成後にHE染色した(図1)。表皮はUVBを照射することで119μmに肥厚した(UVB 非照射群は28μm)。一方、ビートGlcCerとビート抽出物を飲ませた群では68、69μmであり、UVB照射による表皮の肥厚は抑えられた。

図1 Hematoxylin and eosin 染色画像と表皮厚さ

(A)正常群(UVB 非照射群 , 溶媒のみ投与);(B)紫外線照射群(UVB照射 , 溶媒のみ投与);(C)ビート GlcCer 投与群(UVB照射 , ビートGlcCer経口投与);(D)ビー ト抽出物投与群(UVB照射 , ビート抽出物経口投与);(E) UVB照射マウスの表皮厚 . スケールバー : 50 μm. **, p < 0.01 vs. normal group, †† , p < 0.01 vs. control group, Tukey’s post-hoc multiple comparison test.

角層中セラミド含量

紫外線照射3日後に角層中のセラミドを定 量した(図2)。UVB照射によって角層中のセラミドは減少したが、ビート GlcCerとビー ト抽出物を飲ませた群ではUVB照射群と比較してセラミド含量は増加した。

図 2 UVB 照射マウス角層のセラミド含量

(A)セラミド NS,(B)セラミド NP,(C)セラミド AS,(D) セラミド AP. *, p < 0.05, **, p < 0.01 vs. control group, Tukey’s post-hoc multiple comparison test.

TEWL と角層中水分量の変化

図3に UVB照射後0、3、6日目の経表皮水分損失量(TEWL)と角層中水分量(water contentsinstratumcorneum)の結果を示した。TEWL は紫外線照射した日(図3A 左)ではどの群でも変化がなかったが、UVB 照射3日後には、UVB 未照射群と比較し、有意に増加した。しかし、ビートGlcCerまたはビート抽出物を経口投与した群ではTEWLの上昇が少なかった。特に、ビート抽出物投与群では、UVB照射し、溶媒投与(未処理群)群と比較し、有意に TEWL は低値を 示した。角層水分量も同様、UVB照射直後には大きな差は見られなかったが、照射3日 後に低下した。照射7日後にはビート抽出物投与群で、溶媒投与群、ビート GlcCer 群と比較して角層水分量は有意に増加した。

図 3 UVB照射マウスに対するビート抽出物のTEWLおよび角層水分量に対する影響

(A)経表皮水分損失量(TEWL);(B)角層水分量 . Values are shown as means ± standard deviation(n = 6 at day 0 and 3, n = 3 at day 6). *, p < 0.05, **, p < 0.01 vs. normal group, † , p < 0.05 vs. control group, † † , p < 0.01 vs. control group, ‡ , p < 0.05 vs. beet GlcCer group, Tukey’s post-hoc multiple comparison test.

考察

本稿では、UVB照射マウスの表皮厚、角層中セラミド含量、経表皮水分損失量、角層水分量に対するビートGlcCerやビート抽出物の効果を検証した。

セラミドは角質細胞間脂質の約40%を占 め、皮膚バリア機能を担う化合物である1-3)。

最近の実験ではUVB照射によって角層のセラミド含量の減少や、セラミダーゼ遺伝子の上昇や6)、植物由来のGlcCerの経口投与により表皮中のセラミド合成酵素が2倍に増加したことが報告されている7)。今回の結果として、UVB照射後3日目全ての測定されたセラミドの減少を示したが、ビー トGlcCer群およびビート抽出群の両方において、正常群の角層セラミド含量と同程度になった。したがってビート抽出物中のGlcCerは角層セラミド含量に寄与していることが強く示唆された。Haratakeらは紫外線照射マウスのTEWLの増加は表皮細胞の過形成が関与していることやTEWLの増加はDNA合成阻害剤によって減少し、表皮過増殖は表皮バリア障害と関連していると結論している8)。TEWLは身体からの水分損失を反映し、一般に皮膚バリア機能のパラメータとして使用される。今回の実験では、 UVB 照射3日後の対照群では、表皮肥厚およびTEWL の増加が観察された。TEWLを正常化する植物由来GlcCerの有効性は、ドデシル硫酸ナトリウム誘発皮膚炎症モデル動物のバリア傷害を抑制した5)。

我々の研究では、TEWLはビートGlcCer群で対照群と比較してわずかに低かったが、 その差は統計学的に有意ではなかった。興味深いことに、等量のGlcCerを含有する ビート抽出物の経口投与は、対照群と比較した場合、UVB 照射によって引き起こされ る TEWLの増加を有意に減少させた。さらに、角層水分含量の減少が早期に回復した。 これらの結果は、ビート抽出物中の GlcCer以外の成分が、UVB照射によって誘発された皮膚バリア機能不全の予防または回復に役立つことを強く示唆している。例えば、ビー ト由来のステリルグリコシド、フィトステロールおよび遊離脂肪酸がビート抽出物に存在する。最近の研究では、ステリルグリコシドとフィトステロールがUVB照射誘発炎症反応(サイトカイン、マトリックスメタロプロ テイナーゼ産生)を皮膚細胞で阻害することが報告されている9, 10)。UVB 照射皮膚組織において、炎症性サイトカインおよびケモカイン、例えば IL-1α、TNFαおよびIL-8はケラチノサイトから放出される11, 13)。こ れに続いて皮膚組織への活性化リンパ球の浸潤が起こり、炎症反応を引き起こす。ビー ト抽出物の経口投与は、ビート抽出物中のフィトステロールがUVB照射後の皮膚組織 における炎症反応の拡大を防止するので、 GlcCer単独の投与よりもUVB照射後の皮膚バリア機能障害を減少させる可能性がある。この仮説の確認にはさらなる検討が必要である。

まとめ

ビートGlcCerの経口投与は、UVB照射によって引き起こされる表皮肥厚および角層セラミド含有量の減少を抑制した。さらに、我々の発見は、ビート抽出物がGlcCer以外の成分を含み、皮膚バリア機能の改善にも有効であることを示唆している。

[引用文献]

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城西大学薬学部 皮膚生理学研究室 教授
徳留嘉寛 とくどめ・よしひろ
静岡県立大学大学院薬学研究科修了。薬剤師、博士(薬学)。ポーラ化成工業株式会社研究所、武蔵野大学薬学部薬学研究所助手、 助教、城西大学薬学部准教授を経て、2015年より現職。日本香粧品学会評議員、日本薬剤学会評議員、ヒアルロン酸機能性研究会 評議員など。日本薬学会のChem. and Biol. Pharm. Bull.、日本香粧品学会のJ. Jpn. Cosmet. Sci. Soc. などのEditorを務めている。

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第45号 2018年9月