2020.6.29

地球環境を考える「日本の河川の現状:きれいな水を供給するために私たちができること」

日本メディカルハーブ協会専務理事

取材:金田太朗

自然からの恩恵を受けながら日々暮らす私たちが今、考えるべき地球の健康について様々な視点からレポートしていきます。今回は、公益財団法人河川財団の藤山秀章さんと山本嘉昭さんに、日本の川についてお話をうかがいます。

Q: 最初に、日本の川の現状について教えていただきたいと思います。

藤山 秀章さん(以降、藤山) まず利水、つまり川の水利用についてお話すると、日本では年間の降水量約6,500億㎥のうち約2,300億㎥は蒸発し、残りの約4,200億㎥のうち約800億㎥が使用され、残りは地下水となって、あるいは川を通じて海に流れます。水の用途は農業用水が全体の約7割を占め、次いで生活用水が約2割、工業用水が約1割です。もちろん、川の水量は気象によって変動し、時には渇水を生じることもありますが、一時期と比べると森林の緑化がだいぶ進んできたこととダムがつくられてきたことで変動量が少なくなり、過去20年間は概ね安定して水を供給できています。

Q: 環境の観点から見ると、日本の川はいかがでしょうか。

藤山 水質の面では、高度経済成長期には上流域の工場などからの排水などがあり、下水道整備も遅れていたため、昭和30~50年代までは川の水質全体が悪かったのですが、平成に入った頃から相当によくなってきています。

山本 嘉昭さん(以降、山本) 水質を表すBODという指標があり、それぞれの河川で基準値が決まっています。国土交通省が全国988地点で水質調査をしたデータを発表していますが、BODの基準値を満たす河川がどれくらいあるかを見ると、昭和50年代は60〜70%くらい。それがだんだん上がってきて、今は91%ですね。

Q: 水質が改善されてきた背景には、どのような要因があるのですか。

藤山 環境に対する意識が上がったというのが1つ。それから下水道の整備が一番大きいと思います。例えば洗濯水などの家庭雑排水は、昔はそのまま川に流されていたのが、下水道が整備されたことによって、下水処理場である程度処理されて出て行くようになりました。設備の数も増え、技術も上がってきているため、20、30年前と比べると、処理して川に戻す時の水質は相当にいい状態です。とはいえ処理能力をオーバーすれば、結果的に川に負荷がかかってしまいますから、各家庭が出口のところでもう少し努力することは必要ですね。

河川財団では、アクティブ・ラーニング型の
国際水教育プログラム「PROJECT WET」を日本で推進しています。
Q: 川のために各家庭で、あるいは個人で具体的に何をしたらよいでしょうか。

藤山 環境への負荷を減らすという意味では、ごみとして処理できるものは排水溝に流さず、全部ごみとして処理していただく。その最たるものが、油です。一般の方が思っている以上に、油というのは分解して処理するのに相当量の水と微生物の力を借りなければいけません。生活とのかかわりで言えば、私は一番大きいのではないかと思います。

それから今、海のマイクロプラスティックが世界的な話題になっていますが、その元をたどれば、川へ捨てられたごみであるケースが多い。ですからストローやペットボトルなどの小さなものから車や自転車などの大きなものまで、川へのポイ捨てをしない、させないことが重要です。

1本の川にはいくつもの支流があり、その支流にはさらにいくつもの支流がある。これを「水系」と呼び、その全部を包含したエリアを「流域」と言います。上流域に降った雨は最終的にはその川に集まり、海に流れて行きます。ポイ捨てのごみも同様です。川をきれいにし、海をきれいにするためには、流域全体で考えることが大切です。

Q: 利水の面では、渇水に備えて日々の生活で節水することは必要ですか。

藤山 個人レベルでの節水は、渇水になった時、重要になります。ただ、普段から節水意識をもっていないと、いざ節水が必要になった時に難しいのではないかと思います。日本は水はタダの国と言われていますが、決してタダではありません。きれいな水を供給するためにいろいろな努力があり、水道料金にしても水の処理費とワンセットで徴収されているのです。そういう意味ではやはり節水意識はもち続けなければならないと思います。

Q: 河川財団は河川教育にも取り組んでいますね。最後にその内容について教えてください。

藤山 子どもたちが水に触れたり、そこで動植物に触れたりしながら育つのは人間形成上必ずよい効果がありますので、それを広げていきたいと考えています。集団で水質調査をしたり、そこに棲んでいる動植物を調べたり、河川教育にはいろいろなパターンがあります。

山本 今、学校だけでなく、各地域の団体や自治体で川での体験活動をしていますから、ホームページなどを見てぜひ参加していただければと思います。一方で、河川財団は安全な川遊びのために啓発活動も行っており、子どもの川遊びにはライフジャケットの着用をおすすめしています。川は浅瀬のようでも急に深くなっているところがありますし、雨でまたたく間に水位が上がることがありますので、十分に気をつけて川を楽しんでいただきたいですね。

藤山 特に都市の真ん中に住んでいる子どもたちにとっては、川は一番近場で自然に触れられる場所です。川に行って、ぴちゃぴちゃと足をつけるだけでもいい。川底の感触、水の匂い、どんな石ころがあるのかなどが体験的に感じ取れます。それは、教科書で教わるだけでは決して得られない経験です。そうして川に興味をもってもらい、川と水と生活のかかわりを知ってもらうことが、川を守ることにつながると確信しています。

河川財団発行:水辺の安全ハンドブック

公益財団法人河川財団とは

「河川財団」は、河川環境の整備・保全を趣意に1975年に設立された「河川環境管理財団」に始まります。その後、1988年に河川整備基金が設置されたのを機に河川に関する研究などへの助成を開始し、2013年に公益財団法人に移行して現在の名称になりました。河川に関する調査・研究、河川への理解を深めるための活動に対する助成、河川教育、河川健康公園の管理・運営などの事業を行っています。

河川財団公式サイト:https://www.kasen.or.jp/

初出:特定非営利活動法人日本メディカルハーブ協会会報誌『 MEDICAL HERB』第48号 2019年6月