2016.6.6

緑茶が認知症の予防に?

日本メディカルハーブ協会国際情報委員会

翻訳・コメント:桂川直樹

金沢大学が緑茶を摂取するとことで、認知機能低下のリスクを下げる発表をしています。論文は英文で発表されているため、以下に要約の翻訳文を紹介させていただきます。

認知症を治す根本的な治療は現在のところ開発されていないようです。認知機能低下に結びつく、予防につながる珍しい研究といえます。緑茶を飲むことで予防につながるとしたら素晴らしいことだと思います。残念ながらコーヒーや紅茶では有意差がでておらず、緑茶のみで有意差がみられました。

具体的には週に1〜6日緑茶を摂取すると約半分のリスクに、毎日摂取すると1/3程度のリスクになります。この結果は交絡因子である遺伝子(APOE)、アルコール摂取、喫煙、運動、糖尿病既往歴、高血圧、脂質異常症、年齢、性別などによる影響を取り除いたものです。そのため信頼のおける研究といえそうです。

しかしながらその他の計測していない要因(たとえば社交的であるなど)と緑茶の摂取との間に相関があり、他の要因による影響で認知機能の低下を防いだのかもしれません。
(コメント:桂川直樹)

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緑茶摂取は認知機能低下のリスクの減少と関連するが,コーヒー・紅茶は関連しない
“Consumption of green tea, but not black tea or coffee, is associated with reduced risk of cognitive decline.”Noguchi-Shinohara M et al. PLoS One. 2014 May 14;9(5):e96013.

緑茶、コーヒー、紅茶の消費が認知症もしくは軽度認知障害の発生に影響しているかどうかを確認することを研究目的として、石川県七尾市中島町(なかじまプロジェクト)に住む60 歳以上の方を対象に前向き研究※1を実施しました。参加者は認知機能検査および採血検査を実施しました。研究開始時および追跡調査期間に緑茶、コーヒー、紅茶の摂取状況の調査を行いました。研究開始時(2007-2008年)に認知機能が正常だった723人の参加者のうち、490人が追跡調査(2011-2013年)を完了しました。追跡調査期間(平均追跡期間 4.9 年±0.9年)に認知症を発症した人は5.3%、軽度認知障害を発症した人は13.1%でした。緑茶を飲まない群を基準とした場合に週に1〜6日緑茶を飲む群の認知機能低下(軽度認知障害あるいは認知症の発症)のオッズ比※2(95%信頼区間)は0.47(0.25〜0.86)に、毎日1杯以上の緑茶を飲む群の認知機能低下(軽度認知障害あるいは認知症の発症)のオッズ比(95%信頼区間)は 0.32 (0.16〜0.64)でした。コーヒーと紅茶ではこのような相関は認められませんでした。わたしたちの研究結果から緑茶の摂取は、交絡因子を調整後でも、認知機能低下のリスクを下げることが示唆されました。
(翻訳:桂川直樹)

※1前向き研究(prospective study)
コホート研究。過去と現在のデータを扱うのが後ろ向き研究(retrospective study)で、これから生じる現象を観察するのが前向き研究。後ろ向き研究ではすでに判明している事項を扱うので研究者によるバイアスが入りやすいのに対して、前向き研究では結果がわかっていないためにバイアスがかかりにくく、より信頼のおける結果が得られるとされている。(バイオテクノロジージャーナル2007年vol.7, No.3)

※2 オッズ比(Odds ratio)
オッズ比はある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度。例えば、男女それぞれ100人に先週ビールを飲んだかどうか聞いてみる。男性は80人が、女性は20人が先週ビールを飲んだと答えるとしよう。男性がビールを飲んだオッズは80対20つまり4/1=4で、女性は20対80つまり1/4=0.25である。4 / 0.25 = 16で、オッズ比は16となる。(出所:ウィキペディア)