2012.2.15

スターアニスとシキミの違い

日本メディカルハーブ協会の国際情報委員会

コメント:桂川直樹、翻訳:清水暢子

スターアニスは八角(はっかく)と呼ばれている香辛料で、文字通り八角形の果実を乾燥させたものです。中華料理の香り付けなど世界で親しまれているスパイスで、とくに豚肉の角煮には絶対に欠かせず、五香粉とよばれるスパイスミックスにも用いられます。以前は乳児の疝痛(ミルクを飲んだ後に起こすおなかの痛み)治療のハーブティーとして使われていましたが、現在ではあまり用いられていないようです。

このスターアニスに形状がよく似た植物としてシキミがあり、こちらには強い毒性があり食用にはされていません。今回当協会で翻訳したABCの報告文では、2003年のフランスでの誤食事故を受け、この2種類を間違えないように勧告しています。シキミは「ジャパニーズ・スターアニス」と英訳されます。日本人にとっては、毒性のあるシキミをこのように英訳されているのはどうも腑に落ちないですよね? 大多数の日本人はシキミがジャパニーズと訳され、さらに毒物である、ということを知らないのではないでしょうか。この機会に、このスターアニスとシキミの関係をはっきりさせておきましょう。

スターアニスは常緑高木のシキミ科シキミ属トウシキミ(Illicium verum)の果実を乾燥させたものです。芳香の主成分はアネトールで、フェンネル(茴香:ういきょう)やアニスシードも同じくアネトールが主成分のスパイスです。スターアニスが大茴香(だいういきょう)とも呼ばれる所以です。またスターアニスの成分であるシキミ酸はインフルエンザ治療薬タミフルの原料にもなっています。(スターアニスに治療効果はありません)スターアニスは中国南部やベトナム北部の山村で採集されます。これはプランテーションのような集約された栽培ではなく、森林のなかに混じるスターアニスの樹木を山岳少数民族が管理して、春の収穫時期が来ると果実を採集します。このような山村に住む採集者、これを集荷するコレクター、簡単な選別や等級などを行う一次加工業者や輸出業者を経て各需要地に出荷されていきます。

一方のシキミ(Illicium anisatum)はシキミ科シキミ属の常緑高木で、中国やベトナムなどスターアニスの産地、および日本にも広く分布しています。原産地は日本とされています。シキミの果実には毒物アニサチンが多く含まれ、神経毒性と胃腸毒性があり、劇物に指定されています。日本では花が仏事に用いられるため寺院などで植栽されています。以前はモクレン科に分類され、現在はシキミ科となり、2009年のAPG植物分類体系第3版ではマツブサ科と同種として分類されています。今後も植物分類体系が修正されていく過程で、日本が原産地ではなくなるかも知れませんが、日本では献花として伝統的に用いられてきたため、海外では「ジャパニーズ」の名称となったのでしょう。果実はスターアニスに似ていて、その中の種子はシイの実に似ているため、以前はよく日本でも誤食事故が起きていました。戦前にはスターアニスと間違われて輸出され海外で死亡事故などがあったようです。

スターアニスの商業生産が行われているのは中国とベトナムのみで、これらの地域にもシキミが自生しています。スターアニスに少量のシキミが偏在する混入に対しては、以下の翻訳文にあるような分析によって品質管理をすることは実質的に困難だと考えられます。そのため、産地でシキミと混同されないこと、信頼できる供給ルートからの調達が必須になります。経験不足の採集者やコレクターが共有するスターアニスにはシキミが混入する恐れがあり、2003年の事故は産地で混ざったものと考えられています。
(コメント:桂川直樹)

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スターアニスの識別にABCとAHP、AHPAが情報を提供

原題:ABC, AHP, and AHPA Provide Identity Information on Star Anise Confusion
掲載:ABC News Release Nov.17, 2011

米国ハーブ業界とハーブの研究者たちは毒性のあるジャパニーズ・スターアニス(シキミ、Illicium anisatum)が安全なチャイニーズ・スターアニス(スターアニス、I.verum)とときどき間違って識別されていることを懸念してきました。この2つの植物の果実はどちらも星形で、専門的なトレーニングを受けていない者から見ると識別が難しく、エスニック系の食料品店などでチャイニーズの代わりに毒性のあるジャパニーズが誤ってブレンド茶に混合されることがありました。

スターアニスはエスニック系の食料品店等で乳児の腹痛用のハーブティーとして人気がありますが、北アメリカではサプリメントに調合されることはめったにありません。2003年度の米国食品医薬品局(FDA)の発表によると、“過去2年間で、スターアニスの入ったお茶を飲んだことが病気の原因となったのは約40症例あり、そのうち約15症例は幼児でした。症状に発作などの深刻な神経異常から嘔吐、神経過敏、急速眼球運動などがありました。”

ハーブの関連団体であるABCとAHPとAHPA※1はそれぞれ2つのスターアニスの品種を正しく見分けて混乱と混入を防げるようにハーブとスパイス業界のメンバーへ情報発信しています。

2011年11月9日に、ハーブ業界団体のAHPAはその『植物認証プログラム』にある『偽和物混入の手引き』にスターアニスを追加したことをプレスリリースしました。これはAHPAが発表した同様のハーブとしては13番目のもので、詳細はAHPAのウェブサイトで閲覧できます。※2 このプレスリリースの中で、AHPAのプレジデントであるマクガフィン氏は「今回のスターアニスを含め、ハーブの偽和物識別方法の分野では14年間業界を牽引してきました。今後も商取引上関心の高い情報を発信し続けます」と述べています。

また同じく11月9日には世界でもっとも質の高い植物モノグラフを編纂する非営利活動団体のAHPも、『スターアニス(I. verum)と毒性のある偽和物シキミ(I. anisatum)の違い』について2006年の時点で品質管理書類を作成するようにFDAから依頼を受けていたことを発表しました。※3 このプレスリリースでAHPは以下のようにコメントしています。「FDAへの報告文は毒性についてのレビュー、偽和物混入の歴史、この2種の植物学的、形態学的、顕微鏡的、官能品質の違い、化学的な違いについての詳細を記載しています。この2つの種を識別する分析方法は以前生薬学者が用いていた比色分析法(単純な色彩反応テストにおいてシキミは黄色を発し、‘本物’のスターアニスはピンク色から赤色を発する)、HPTLC(薄層クロマトグラフィー)、HPLC-MS(高速液体クロマトグラフィーに質量分析装置が接続されたもので、EUでの混入防止検査に用いられている)を用いた方法があります。他のAHPのモノグラフと同様にこの報告文にも写真による比較がされ、比色分析法とHPTLC法による識別方法が収載されています。それぞれの識別方法のメリットとデメリットが比較されていますのでとても役に立つ情報だと思います。」

AHPのプレスリリースのなかでCEOのアプトン氏は以下のようにコメントしています、
「この2つの種の混同は19世紀後半までには発生し始めており、ここ数十年間も持続的に発生しています。メキシコでは多くの植物がスペイン語で「アニス」と呼ばれており、それらの中にはフェンネル(Foeniculum vulgare)やアニスシード(Pimpinella anisum)などスターアニスと同じく乳児の腹痛に使われる植物があるため、この問題は一層こじれてしまっています。まずはスターアニス、シキミの2種が明確に識別されることはとても重要なことといえます。」

さらにAHPは、「AHPAがスターアニスを偽和物混入リストに加えたことは、取扱い業者やAHPAの会員に対して適正かつ充分な試験を行うべきとの勧告をしたということに等しい」と述べています。

ABCもこれまで発表を続けてきました。スターアニスとシキミの混同は最近の出来事ではなく、FDAの消費者への勧告がなされた後の2003年9月にはプレスリリースを行っています。またABCは1997年にEconomic Botany誌の短い記事を要約し、2種が混同されて問題となっていることを伝えています。さらに2006年にはJournal of Agriculture and Food Chemistryの論文にTLC(薄層クロマトグラフィー)とHPLC-MSを用いた2種の識別方法について報告しています。
(2011年11月17日テキサス州オースティン)

※1 The American Botanical Council (ABC)、the American Herbal Pharmacopoeia (AHP)、とthe American Herbal Products Association(AHPA)
※2 AHPAホームページ(http://www.ahpa.org/)から
Botanical Authentication ProgramのKnown Adulterantsの項目で閲覧可能。
※3 AHPのホームページ(http://www.herbal-ahp.org)から
News Releaseを閲覧可能。スターアニスとシキミの画像の違いも掲載されています。

(翻訳にあたっての参照文献)
1.Ize-Ludlow D et al. Neurotoxicities in Infants Seen with the Consumption of Star Anise Tea. The American Academy of Pediatrics. 2004
2.Minodier P et al. Star Anise Poisoning in Infants. Arch Pediatr; July; 10(7): 619-21; 2003
3.ABC Public Relations. ABC, AHP and AHPA Provide Identity Information on Star Anise Confusion.Nov, 17, 2011. Austin, Texas.

(翻訳:清水暢子)